《MUMEI》 「ほらォ 川の流れがネエからよ 九ちゃん 苦しそうに 浮いてるだろ! 奴は 通称九ちゃん まぁ河童の九ちゃんかォ オイラは通称ビルちゃんだな ォ はははぁ〜 」 おまえのへたな駄洒落なんか…聞きたくもない!……と、 宏介は思った 。 「九ちゃんはよ……本名…伊奈原九一…言うて生まれなからの 私生児でよ…天涯孤独モンだがやコレが …… オヤジが二号さんに 生ませた子だんべよ …… 通称ビルは方言が得意らしい…… 時折浮かんでは消えるその皿を見つめながらも…叩く気はなく竿を小川に振り下ろしている… 「そのかあちゃんは田舎の温泉芸者でよ…コレがなかなか評判の美人だったらしいでな…酒屋の凡ぼんだったオヤジは 相当入れこんだらしいでよ… 」 通称ビルはそう言って伸びた爪の小指を突き立てた… 「しかしオヤジはよ…これがまた…よくある道楽息子でな その遊びクセはハンパじゃなかった…… なんでも その九ちゃんの名前は博打の縁起を担いでつけたって言うらしいからな…はははぁ〜(笑) …で、オヤジは…かあちゃんと赤ん坊の九ちゃんを引き取って仮住居させてたんだがな…あんな道楽息子が後を継いだんじゃ商売にゃならねぇわな…そりゃ〜よォ 飲む打つ買うの三拍子に根っからのお人好しも手伝って…オヤジはアッチコッチで保証人になってたもんだからよ… とうとう酒屋は人手に渡るわ… 土地は獲られるし…本妻にゃ愛想尽かされるわ…でよ… しまいにゃ…無一文でおっぽりだされたって奴よ……挙げ句に仕方なく無理して働いてたキュウのかあちゃんは… 九が六つの時に病気こじらせて死んじまうしな…… 困ったオヤジは 里子に預けたんだよ…九ちゃんを 親戚によ… 前へ |次へ |
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