《MUMEI》

「へぇ、まだそんな力残ってたんだ。すごいね」
大袈裟に驚く素振りを見せながら、拍手する雀
笑う声がそれ以上ない程に耳触りで
懐から素早く銃を取って出すと、雀の眉間へと銃口を押し当てながら
「黙れ」
短く、低い声色
其処に普段の穏やかさはなく、雀を睨め付ける眼も凶悪そうなソレ
銃で雀を拘束したまま、殺鷹は白花広がる街を眼下に見下ろす
「どうするつもり?」
唯下を見下ろすばかりの殺鷹に、訝し気な雀
殺鷹は答えて返す事はせず、徐に生えた己が羽根を広げた
最初は一輪、ひらりと落ちて
白ばかりしかなかったそこに、黒の彩りを添えた
ソレは段々と数を増し、白花を染めていく
「止、めろよ。汚すな!せっかくの白花を汚すなよ!」
白の彩りを汚されるのを拒むように喚き始め
雀は鳶を大声で呼んでいた
「……鳶!こいつ殺してよ。邪魔、邪魔だ!」
明らかに苛立ったような様子の雀
その傍らへと鳶はゆるり歩み寄って
雀の言葉に従うかの様に見えた
だが、その直後に
白花の上に大量の朱が飛んで散る
「え……?」
一体何が起こったのか
鳶の腕が、雀の腹を貫いていた
湿った水音を経てながら引き抜かれて漸く
激痛が雀を苛む
「痛……。痛い、よ。鳶、ど、して……」
倒れ込んでしまった雀が、」訳が解らないと訴え
だが鳶はその様を見下し嘲笑を向けるだけ
「お前も、もう必要ない。世界は白花に満たされた。後はこの男さえ殺せば、全てが終わる」
「何、で……?」
「お前はよく働いてくれたよ、雀。おかげで全てうまく事が運んだ。感謝している」
言葉に厭らしく歪んでいく唇に、雀の顔から血の気が段々と引いていく
それでも何とか手足をばたつかせながら
「嘘、だ。こんなの嘘だ!だって、まだ黒花だって残って……」
掠れていくばかりの雀の声に、鳶は益々の嘲笑を浮かべながら飛んで上がり
瞬間に殺鷹との間合いを詰める
喉の奥で笑いながら
「黒花など、全て刈り取ってしまえばいいだけの事だ」
短く、言い切った
直後に殺鷹の喉元に当てられた冷たい何か
感じるソレに、刃物の類だろう事は知れたが、だが殺鷹に焦りはない
「私や雲雀を殺せば、それが叶うとでも?安易な考えだ」
「何?」
「よく考えるといい。お前の半身が、一体誰の内にあったのかを」
声に笑みすら含ませて
行って向ければ鳶の表情が僅かに変わった
「……お前、何が言いたい?」
訝し気な鳶へ
解らないのは愚かだと、殺鷹は溜息を付きながら梟と烏の方を見やる
「白の鳥と黒の鳥。彼らはお前が二度めに生まれた時の大元。つまり烏、黒の鳥はお前の半身でもあるんだ」
「馬鹿を言うな。私の半身があの汚れた鳥だと?戯言もいい加減に……」
殺鷹の言葉に動揺し、だが否定して返す鳶
うろたえる事を始めてしまった鳶に更に追い討ちを掛ける様に
彼の背から白花に塗れ黒花が姿を現し始めていた
「黒、だと?何故だ!?」
「言ったろう?お前の半身は黒の鳥だと。そのお前が黒花を背負った処で何の疑問もない」
喉元の異物を払って退け
殺鷹は銃口を素早く鳶の胸元へと押しつける
「消えて、貰おうか。鳶。落日は、お前一人で迎えるといい」
言い終わりに、なる銃声
鳶の身体が倒れ込み、流れだした大量の血液は白花を薄紅へとゆっくりと染め上げていった
「……何故、汚れていく。私は、全てを消したかった、何にも囚われる事の無い様、全てを……」
段々と白を失っていく花を見、鳶は名残り惜しげに手を伸ばす
白ばかりの世界
比較すべき色のない白は、見ても何の感情すら抱けない
別の色があるからこそ、白の清らかさは引き立つのだから
「……悪いが、お前が望む下らない世界を造らせてやるつもりはない」
無感情な声で一人呟くと、改めて銃口を鳶へと向け、そして無慈悲にも撃って放っていた
大量に散った鳶の血は、白花だけでなく殺鷹すら返り血で汚していった
「……白ばかりだと、赤がひどく映える。私はこの色が大嫌いでね、目ざわりで仕方がないんだ。それに」
ここで一度言葉を区切り

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