《MUMEI》

……志島螢、帰ったかしら。
やけに静かね。

瓦礫の隙間から覗いてみると志島螢の体育座りしている膝が見えた。
馬鹿なやつ。
二日も飲まず食わずで私を待っている。

私は慣れているけれど、一般人は堪え難い苦行だ。
……嫌なことを思い出した。

迷い込んだ痩せた犬……、こっそり手なずけた。

汚いけど、擦り寄りもしなかったけど、餌を与えると尻尾を振って食べていた。

初めて飼い馴らした……。

あるとき、目の前の牢で白い塊を見た。

私の初めて手なずけた……白い骨。


「この私の傍に居る以上は最低限の生存状態を維持しなさい……殴っても蹴っても潰しても生き残りなさい。丈夫さだけが取り柄でしょう?……傍に居たいならここでくたばるような愚行はおよし、ゴキブリ!」

ぐったりした虫を踏み付けて、口の中にビスケットを入れてやる。


「……はい……、千花様の仰せのままに。」

虫の分際で涙なんか流す。

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