《MUMEI》
愛は会社を救う(40)
「これが、全部あの資料の中に…」
「はい。雑件というラベルが付けられていました」
仲原が驚異的な速さで、推測できるあらゆる事態をシミュレーションしているのが、私にはわかった。
それはこれまでの立ち居振る舞いからは想像もできない、鋭い切れ者の表情だった。
「この事を知っているのは、おたくだけ?」
「雑件ファイルの整理が進んでいる事は、総務の藍沢さんもご存知です」
「そう」
そういうと仲原は、ファイルを作業台の上に置き、しばらく考え込んだ。
やがて、私の顔を見ると、少し表情を和らげてこう言った。
「あんた…この意味、全部わかってるみたいだね」
私は目を合わせたままで、しかし返事はしなかった。
「俺に山下のこと訊いたのも、これ見てピンと来たから?」
問い詰めるような口調ではない。むしろ、行間で私に助けを求めているような、そんな調子に聞こえた。

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