《MUMEI》

「有毒……?」
文字通りにやり、と斎藤アラタは口元を上げた。
「学習能力皆無だな?」

屋上で言われた、過去のことを思い出し、慌てて手を離す。
「……悪い」
何故此処で謝ってしまうのか考える余裕も吹っ飛ぶ。

「俺にはお前の方が有毒だ」アラタはそう言い残して廃工場の敷地を出て通路へ行く。黒いリムジンがアラタの前に停まった。

かなりの値が張りそうな扉を蹴りあげた。
顔では読み取れないが、相当滅入ってるのがもしれない。

「―――バイト!」
突発的に思い出した。
生活が掛かっているんだ。完全遅刻……。
「はぁ……」
走ったら間に合うかも?

どうも斎藤アラタに会うと夢うつつの意識がぼやけた状態になる、足場がまだふらつく。

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