《MUMEI》
愛は会社を救う(42)
「これから、どうなさるおつもりですか」
あえて仲原に質問してみる。
「どうって…。今のところ、全部憶測に過ぎないしな」
仲原の表情は、明らかに手詰まり感を滲み出させていた。
「それに、文書を回覧しなかったってだけじゃ、職務規定で言う職務怠慢程度の話だよ。倫理違反や不祥事とまではいかない」
コーヒーの香りが残る狭い部屋の中で、2人の男の沈黙が続く。
「そろそろ俺、行くわ」
仲原は力無く椅子から立ち上がると、重い足取りでドアの方へと向かった。
「赤居さん、あんた…」
ドアノブに手を掛けて立ち止まり、そこまで言い掛けた仲原が思い直したように首を横に振る。
「いや、やめとく。知っちゃうと、なんか、怖い感じするし」
その背中には、中間管理職の哀愁が色濃くにじみ出ていた。
「コーヒー、ご馳走様でした」
私も立ち上がり、ベテランの背中に深々と頭を下げる。
作業机の上には、まだ口を付けていないコーヒーの紙コップが、一つ残されていた。

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