《MUMEI》

「安西のとは違うかもしれないけど、俺も安西と居ると安心する……。」


「気持ち悪いでしょうけどこの際白状しておきます。俺はたまに、どきどきします。」

諦めたような物言いだ。


「今は?」

何気なく安西の胸に手を当ててみた。


「弾けそうです。」


「なにそれっ!」

顔を背けて吹き出してしまう。


「俺、ウチ先輩の代わりでいいですから。木下先輩の近くに居させて下さいますか……?」


「安西は安西だよ。七生とは違う。
俺は安西と居るからこうして居られるんだと思う、ホントにお礼しつくせないくらい。なんでもしてあげたいくらい。」

最近の俺は安西に救われている。
これだけは確かなことだ。



「……じゃあ、キス……で」


「へ?」

二度見してしまった。


「あは、あっはは!なんてね。じょーおだんですよっ冗談!……はは……」

溜め息みたいな笑い声。
耳は真っ赤だ。


「……そうだよ、こんな公衆の面前でなんて恥ずかしい。」


「……え」

人間の静止する姿を見た。


「仮にだよ、仮に!そう……ものの例え。」

何を口走ってるんだ俺は。
まるで安西に気を持たせるような物言いじゃないか。

「そうですね。
先輩は優しいのでつけ込みたくなりますよ。例えでも俺を気にかけてくれたら嬉しいです。」

こんな状態で微笑出来る安西って、大人だ。


「あんざい、手を……。」

手を繋ぎたい。
安西の選択は、優しいけど寂しいもの。
俺は中途半端でだけど今の安西を傷付けるなんて出来ない。

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