《MUMEI》 15歳の孤独店内に入ると、ショーケースカウンターの奥にいる店員が感じよく挨拶してきた。私は彼女に軽く会釈し、店の右奥にあるイートインコーナーへ入る。 イートインコーナーは閑散としていて、私の他には近所の主婦のグループと思われる女のひと達がケーキを食べていた。 彼女達から少し離れた、窓際のテーブルを選び、私は腰掛ける。荷物を隣の椅子の上に置いて、メニュー表を手に取った。 間もなく、イートインの店員が水が入ったグラスを持って私のところへやって来たので、アイスミルクティーとレアチーズケーキを注文した。 店員が立ち去ってから、私はグラスの水をぐいっと飲む。学校からこのお店まで、ちょっと歩いただけなのに、喉がカラカラだった。夏の暑さのせいだろう。単なる水なのに、すごくおいしく感じた。 喉も潤い、手持ち無沙汰になった私はかばんから携帯を取り出す。メールも着信も無かった。それはいつものことだけれど、不意に寂しさが込み上げる。 世界中で、私だけが独りぼっちのような、孤独感。 一人で悲しい気持ちになっていると、先程の店員がにこやかにオーダーしたものを運んできた。 キレイに飾ったケーキと、よく冷えたアイスミルクティーを私の目の前に並べ、最後に伝票をテーブルの端に置いて、「ごゆっくりお召し上がり下さい」と一言添えると、すぐに立ち去った。 店員が立ち去ったのを確認してから、私はフォークを手に取ると、ケーキを少し切り分けてつまんだ。おいしい。噂通り。もう一度、ケーキを口に運ぶ。やっぱりおいしい。 でも、そこまで。 一人で食べて、一人でおいしいと思う。悪いことではないけれど、やはり寂しかった。 チラリと、主婦グループの方を見遣る。彼女達は時折楽しそうな笑い声を上げ、お喋りに夢中になっていた。 その、声が、今は余計に虚しく感じる。 あんな風に、誰かと一緒にケーキを頬張りながら、「おいしいねー」と、言ってみたかった。下らない話に大笑いしたかった。この至福のティータイムを誰かと共有したかった。 私、ひとりなんだ…。 急に実感した。 私はひとりだった。 クラスメート達とは表向き仲良くしているが、心を開いているわけではなかった。彼等との間には、どうしても越えられない一線があった。 中学の友達とはもう疎遠になってしまっているし、家に帰れば母がギスギスした声で小言を言ってくる。 突然、見えてきた境界線のようなもの。 それは、私と世界の間を完全に隔てていて、弱い私には、到底、それを越えられそうもない。 私には、居場所が、無かった。 心から安らげる、よりどころが、見つけられなかった。 前へ |次へ |
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