《MUMEI》

「……こんなところに住んでいるのは俺くらいしかいない。」

ヴァンは頭を抱えながら答えた。しかし

「だ、だから! お前はヴァンデクス・ペネトレイターかって聞いてんだろ!? い、イエスかノーかで答えろよ!!」

この男、よっぽど混乱しているのかただの馬鹿なのか、どちらにしてもヴァンの苛立ちは募るばかりだった。

わざわざ合わせてやる義理はないが、こちらが折れなければ話は進みそうにない。ヴァンはそう判断し、苛立ちを取り敢えず抑え込んだ。

「……イエス、だ。」

だがヴァンの大人な対応も虚しく、男はヴァンの苛立ちが頂点に達するようなことを言ってのけた。

おそらく緊張もしているのだろうが、元々馬鹿な男だったのだろう。

「よ、よし、それでいい。まったく、初めから素直に従えよな。なんたって俺は依頼人なんだからな。」

「…………! ……失せろ、屑が……!!」

「ひっ!?」

遂にキレたヴァンが放つ怒気を間近で浴びた男は、あまりの恐怖で尻餅をついてしまった。

しかし、というか何というか、多分怯えているからこそだろうが、男は尚も強気な口調を止めない。

「……な、なんだよ、お、俺は依頼人、だぞ!? そ、そんな口……!!」

「何か勘違いしているようだから言っておくが、俺とお前の関係は依頼人と傭兵ではない。単なる赤の他人同士だ。俺はお前の依頼を受けた覚えはない。」

男は今気付いたかのように「はっ!?」という顔をした。相当緊張していたらしい。

だからといってヴァンの怒りが治まる訳ではないが。

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