《MUMEI》
愛は会社を救う(44)
作り慣れているのだろう。知子の手料理は久々に味わう家庭的な滋味だった。
しかしこの部屋に、男の気配はまったく感じられない。
6畳の和室。私と知子はテーブルを挟んで対座していた。テーブルの上には、飲みかけのティーカップが2つ置かれている。
「ごめんなさい。何だか、もったいぶってしまって」
「いいえ。話したくなったら、話してくださればいいと思っていましたから」
ポットから私のカップに、熱い紅茶が注ぎ足される。
「最初、私のこと、嫌な女だと思ったでしょう。高飛車で、口喧しくて」
私は俯いて、静かに笑った。
「そんなことはありませんよ」
それを聞いた知子も、心なしか口元を緩める。
「でも彼女、そういう女が好みなんです」
聴く側にはやや理解し難い発言だったにもかかわらず、知子の表情はあまりにも淡々としていた。
「彼女?」

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