《MUMEI》 愛は会社を救う(47)知子は暖を取るように両手でカップを覆いながら、天井の照明器具に目を遣った。 「でも、あの人、探り当てたんです…私の処分のこと」 一瞬の閃きとともに、私は頭の中でいくつかの情報が有機的に繋がっていくのを感じた。 「人事労務管理システム…」 思わず呟いた私の言葉に、知子が驚いたような表情で応える。 「ええ。山下さん、仕事を説明する時に、いろいろな人のパスワードを目にするでしょ。でも普通、内部の人間に見られてもパスワードなんて変えないですよね。私の事も、支店長のIDを使って人事考課情報を閲覧したみたいです」 職場内での優位な立場を得るためだけに、山下仁美は通達文書を隠したのではなかったのだ。 よりコアな情報へアクセス可能なIDとパスワードを盗む…そのきっかけを作るために周到な工作をしていたのだ。 私はその巧妙な計画性に慄然とした。 前へ |次へ |
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