《MUMEI》

 窓から差し込んでくる朝の陽に、殺鷹は眼を覚ましていた
柔らかな布団の感触に、自身が今ベッドの上に居るのだと理解する
一体どうやって帰ってきたのか
昨日の記憶が所々頭の中から消え飛んでしまっている
だが、ソファの上で眠る烏と傍らで座ったまま眠る雲雀の姿を見
全ては終わったのだという実感を覚えた
ゆっくりと身を起し、座ったまま眠る雲雀を取り敢えずベッドの上へ
横にしてやれば、その僅かな揺れに雲雀は眼を覚ます
「殺、鷹……?」
「起こしてしまったかな。悪かったね」
普段通り、穏やかな笑みを殺鷹は見せ
柔らかく雲雀の髪を梳いてやれば、雲雀は縋る様に殺鷹の袖をつかんだまま
離そうとは決してしない雲雀に、殺鷹は僅かに肩を揺らすと雲雀を腕の中へ
彼女を抱いたまま、殺鷹は布団へとまた横になった
動く度痛む身体に顔をしかめる殺鷹
その様を見ながらも
雲雀は何を思ったのか殺鷹の腹を跨ぐ様に上へと乗りあげる
そして
「……馬鹿鷹」
一言短い声
暫く後、殺鷹の頬に次々と雫が降って落ちてきた
「雲雀……」
普段、あまり感情を顕わにする彼女ではないが故に、久しぶりに見たその顔にやはり戸惑ってしまい
だがすぐに笑みを浮かべると、殺鷹は雲雀を抱く腕を更に強めていた
「……君の泣く顔を見たのは、久方振りだ」
素直につい言ってしまえば、雲雀は殺鷹を睨めつけ
唇へと噛みつくような口付けを一つ
「……私だって、感情が昂ること位あるの」
不手腐った様な物言いに、殺鷹はまるで幼な子をあやすかの様に雲雀の背を撫でてやる
段々と落ち着いてきた様子の雲雀
殺鷹から離れる事はしかしせずに、徐に窓を開け放った
ひらり風にさらわれた花弁が一枚部屋の中へと入り
淡い薄紅が殺鷹達の間へ
舞って入り込んでくる彩りの花弁を眺めながら
「……鳶は、惨めね。とても」
全ての彩りを良しとせず、その全ての無色を望んだ鳶
その結果迎えたのは、たった一人の落日
孤独を感じずにはいられず、雲雀は空を仰ぎ見る
「……もう全ては終わった事だよ、雲雀」
背後から、彼女を抱き返してやりながら
もう済んだことなのだと改めて言って聞かせた
「これから、どうすればいい?」
ベッドの上へと降ってきた花弁を一枚拾い上げながら
雲雀は殺鷹へと小首を傾げて向ける
殺鷹はゆるり首を横に振ってやりながら、徐に烏の方へと視線を向ける
「今は、何を考える必要もない。あの子が目を覚ますのを気長に待って、それから白鷺達の見舞いでも行こうか」
殺鷹の提案に、雲雀は虚をつかれ
だがすぐに微笑んで返しながら
「……そうね。あの白の鳥、生きてるんだったら二・三発位どついてやらないと気が済まないし」
殺鷹の首へと腕を回しながら微笑んだ
その微笑みに殺鷹も返し
「ならばそれまでは、私と共にこの花弁を眺めていて貰えないか?私の主」
耳元で低音を呟く
その優しい声色に雲雀が否を唱える事など出来る筈もなく、頷いて返していた
「……時間なら、沢山ありそうだし。いいわ、付き合ってあげる」
せめて、この落日の名残が全て癒えるまでは、と殺鷹と雲雀は笑い合い
降る花弁を横眼に見ながら、誓う様に唇を重ねたのだった……

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