《MUMEI》 屈服の定義いつまでこんな攻めを受けなければならないのか。 しかし明枝は短気を起こさずにしおらしく哀願した。 「お願いです、もう許してください」 「許してほしい?」 「はい」 明枝は優しい眼差しで見つめた。男は明枝のおなかをバスタオルの上から触ると、急に立ち上がった。 「わかったよ、じゃあな」 「え?」 男が玄関へ向かって歩いていく。明枝は慌てて呼び止めた。 「ちょっと待ってもらえますか?」 男はとぼけた顔で振り向いた。 「何?」 「あたし、一人暮らしなんで、ほどいてくださらないと、困ってしまいますので…」 男はまた明枝の近くまで来た。 「そっか」 あっさり両足首をほどいた。助かったと思ったら、男はさっさと背を向けて去っていく。 「待ってください」 「まだ何かあんの?」 明枝は怒りを抑え、低姿勢で言った。 「手もほどいてもらえますか?」 「足ほどいてあげたんだから、手くらい自分でどうにかしなよ」 「そこまで辱めて楽しいですか?」 「そういう生意気言うと屈服させるよ」 「わかった、やめて」 即答する明枝。男は勝ち誇った。 「かわいい。女の子が手足縛られて無抵抗のときに、屈服させるって言われたら怖いよね」 明枝は小声で反論した。 「無抵抗だから、そりゃあ変なことされたら屈服しちゃうかもしれないけど、心は屈服しません」 男は乗ってきた。興味津々の笑顔だ。 「明枝、たとえばさあ、イカされたら屈服?」 「違います」即答した。 「じゃあ、どういうのが屈服?」 「無傷で解放してくれたら、あたしはあなたを尊敬しますから、心から屈服したことになります」 男は満面笑顔だ。 「うまいねえ。でもその手には乗らないよ」 明枝は警戒した。バスタオルを取られないように身構えた。 「もうすぐお兄さんが来ます。ほどいてください」 「そいつはまずいな」 兄貴の話をすると、男の表情が曇った。 「明枝、片手ほどけばいい?」 「はい」 男は片手をほどくと、手首を掴んだ。 「警察に言ったら罰ゲームだよ」 「絶対言いません、信じてください」 「言ったら廊下だよ」 「ダメです、そんなことしちゃ!」 明枝が怒ると、男は立ち上がった。 「さらばだ」 走り去っていく。明枝は急いで手首を自力でほどくと、玄関に走り、ドアの鍵を締め、ドアチェーンをかけた。 「助かった…」 明枝は玄関で崩れ落ちるように尻餅をついた。何も考えられなかった。 前へ |次へ |
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