《MUMEI》
愛は会社を救う(48)
「では、処分の事実を支店内で口外しない代わりに、関係を?」
「ええ。…でも、もう、疲れました」
気丈な態度は崩さないものの、知子は心もち涙声に変わっていた。
「気が付くと、もう36です。ずっとこんなこと続けていて、いいのかなって」
そこまで話すと、知子は俯いて啜り泣き始めた。
2人の間に長い沈黙が流れる。掛け時計の秒針が小さく渇いた音を立てて、その静寂を埋めていた。
「それで、お願いなんですけど…」
ようやく知子が顔を上げる。涙で濡れた瞳で、救いを求めるように私を見つめている。
「今夜、一回きりの約束で、私と…」
意を決してそこまで言ったものの、さすがにその先が続かない。
私は、彼女の気持ちを察して、全てを了承した。
「わかりました。でも、どうして私に?」
そう言うと、知子は本当に済まなそうな仕草で、まず頭を下げた。
「ごめんなさい。田舎だし、地元の人だったら、すぐ煩わしいことになります。でも、この街を出ることが決まっている赤居さんなら、無理を聴いていただけるかと思いました」

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