《MUMEI》
「……違う、これは……、惇が俺に書いたんじゃない」
「…………」
ぱたりと、手帳を閉じる音が病室に響いた。
「……惇…」
裕斗が惇の名前を言い、俺はゆっくりと振り返る。
裕斗は惇の髪を撫でながら寝顔をじっと見つめている。
「じゃあ誰に書いた詩なんだ」
「………、直哉」
「…は?……直哉?……」
「…これ俺が書いたやつ、……
楽屋で暇つぶしに書いて、もしゃくって捨てた落書き……
それを惇が移し書きしたんだ」
「………それって………さ……」
裕斗はゆっくりと顔を上げ、じっと真剣に俺に目線を合わせてきた。
「その方が余計、裕斗に惚れてるって事じゃないのか?」
数秒間を置いて、裕斗は静かに言葉を出した。
「…今から秀幸に会ってくる、…」
▽
裕斗が病室を後にして直ぐに平山さんと惇そっくりな、惇のお袋さんが病室に入って来た。
お互いに会釈をし軽く自己紹介を済ませると、俺も病室を後にした。
そして俺は、約束を果たす為に、車を走らせた。
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