《MUMEI》

「……違う、これは……、惇が俺に書いたんじゃない」



「…………」




ぱたりと、手帳を閉じる音が病室に響いた。



「……惇…」




裕斗が惇の名前を言い、俺はゆっくりと振り返る。




裕斗は惇の髪を撫でながら寝顔をじっと見つめている。


「じゃあ誰に書いた詩なんだ」



「………、直哉」



「…は?……直哉?……」


「…これ俺が書いたやつ、……



楽屋で暇つぶしに書いて、もしゃくって捨てた落書き……


それを惇が移し書きしたんだ」


「………それって………さ……」






裕斗はゆっくりと顔を上げ、じっと真剣に俺に目線を合わせてきた。



「その方が余計、裕斗に惚れてるって事じゃないのか?」






数秒間を置いて、裕斗は静かに言葉を出した。









「…今から秀幸に会ってくる、…」














裕斗が病室を後にして直ぐに平山さんと惇そっくりな、惇のお袋さんが病室に入って来た。

お互いに会釈をし軽く自己紹介を済ませると、俺も病室を後にした。











そして俺は、約束を果たす為に、車を走らせた。

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