《MUMEI》
【1】夢と絶望と始まりと【本文4】
トントン。
「夜分に女性に話し掛けるのは申し訳無いのですが・・・ちょっとよろしいかな?」

 あら、マルドルさんだ。
「どうぞ。幸いまだ着替えもしてないですし、開いてますよ」

カチャ。
「あ、本当だ。私はともかく、剴君がいるんだから必ず鍵はかけておく方がいいですよ。」

 おだやかにそう話すマルドルさんの表情は、曇っている。

「彼女を・・・ユーリの無礼をせめずにあげて下さい・・・。」

「いえ、あの夢見能力を見てしまうと、責める気もおきませんよ。むしろ、尊敬してしまうくらいです。」

「・・・そうですか・・・ご厚意に感謝致します。貴女は、夢見師についてご存知なんですね・・・。」

「・・・えぇ。あの能力はいつ頃からなんですか?」

「・・・人として会話する事が出来るようになってから・・・いや、生まれた時からと言って過言ではないでしょう。」

「それはどうして?」

 生まれた時から夢見であるとは、聞いた事もない。

「私の妻はユーリを出産直後、死にました。その直後にユーリを見ると・・・タロットをいつの間にか持っていたんです。ユーリが運命の輪を持つタロットが・・・。」

「!!!!」



−神に選ばれし者−
 タロットとは、この世界では自分の能力の属性を表す身分証明書。普通は政府の魔学技術省から発行され、旅に出たり、職につく時に発行される。最初は何も描かれていないが、持った瞬間にその人の個人情報と、属性−0〜21番の番号と、それに付随する絵柄が本人として描き出される。とりあえず、不思議なカードが身分証明として使われると思って頂きたい。
 神に選ばれた者は、生まれた時に自然とそのタロットを持っているという。
 それも「10番:フォーチュナー(運命の輪)」はタロットの中でも特別視されているものだ。


 −そう、ユーリは神に選ばれたのだ。
 生まれてすぐに夢見能力があった、という可能性はかなり高い。


「親のエゴかもしれませんが・・・彼女には普通の幸せを手にして欲しかった。でもそれは無理だと承知しております。ですが、周囲の人には、ひねくれた形でもいいから子供らしく甘えて欲しいんです。」
「お父様のお気持ちはよくわかりました。甘えて貰えるよう、努力してみます。」
「かたじけない・・・。」





これが、私セリアとユーリの出会いだった。

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