《MUMEI》

「俺にはもうお前の依頼を受ける気はない。それが分かったなら早々に失せろ。」

ヴァンは冷たく言い放つ。男は迫力に負けて慌てて帰って「ま、待ってくれ!」は行かなかった。

ヴァンは振り向かなかったが、内心少し感心していた。今までにも彼を怒らせて「失せろ」と言われた者はいたが、食い下がった者はこの男が初めてなのだ。

「き、気分を害しちまって悪かった。謝る。この通りだ。も、もちろん、それだけで済まそうなんざ思っちゃいないぜ? 用意してた報酬に追加報酬もたっぷりつける。あんたの言い値でも構わない。だから、頼む! 依頼を受けてくれ!! もうあんた以外に頼れる人はいねえんだ!!」

男は額を地面に擦り付けてヴァンに嘆願する。ヴァンはこんなものを見たところで心を動かされたりしない。

「……いいだろう。依頼を受けよう。」

但し、今回は別だ。

理由の一つは、この男がヴァンに食い下がった初めての者だということ。そしてもう一つは、己を恥じているということ。

普段のヴァンなら気に入らない言動をされたくらいでは怒ることなどない。怒ったフリをして追い返すだけだ。しかし今は本気で怒りを顕わにしてしまった。

それに対する罰、という意味も彼の行動には少なからず含まれている。

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