《MUMEI》
選別
 裏道を抜けると、真っ黒い煙に視界を遮られた。
「今度はなんだよ」
うんざりしながら、ユウゴは言う。
ユキナは慎重に状況を把握しようと、キョロキョロしている。

やがて、煙の正体は地下街の火事であると判明した。
地下で不完全燃焼した火が有毒な煙を発生させている。
下に非難した者がいたなら、ひとたまりもないだろう。
「サトシくん、大丈夫かな?」
心配そうに、地下へ通じる階段を眺めながらユキナが言った。
「大丈夫だろ。あいつらは、おまえよりも頭がいい」
「……ムカつく」
「俺が?サトシが?」
「あんたが」
「そいつは、光栄だ。光栄ついでにもう一つ」
「なに?」
「俺たち、ヤバイ感じ」
ユウゴは目だけで辺りを見回した。
見た目には誰もいない。しかし、明らかに気配を感じる。
「なんなのよ、次は」
「なあ、隠れんぼって歳じゃねえんだけど?」
 ユウゴは声を張り上げた。
すると前、後ろ、横の建物の影からバラバラと人影が現れた。
「……うわ。いつの間に、こんなに」
ユキナが上擦った声で呟いた。
「つーか、こいつら…」
見たことがある。
いや、全員じゃない。
 現れたのはまだ若い少年、少女たちが約二十人。
そのうちの何人かに見覚えがあるのだ。
それはユキナも同じらしい。
「あんたたち、何なの?」
 しばらく様子を見て、彼らが何もしてこないことを確認すると、ユキナは言った。
すると、彼らの後方からもったいつけるように、少年がゆっくり現れた。
「これは失礼。少し、確認をさせてもらいました」
「……おまえ?」
その少年は、さっきサトシに気をつけろと忠告された高下、その人だった。
「確認って、なにを?」
「君たちが、正気かどうか」
 高下は昨日とはまるで別人の雰囲気を漂わせている。
昨日は、他の少年たちと同じように、ただ今の状況を楽しんでいる感があった。
しかし、今はやけに落ち着き払い、穏やかな表情ながら狂気を感じる。
 正気かどうか確認したいのはこっちの方である。
「それで?」
「うん。狂ってはいないようだね。あとは……」
高下が片手を挙げた。
すると一斉に周りの少年たちが、ガチャっと音を揃えて武器を構えた。
その全てが飛び道具。
「なんの真似だ?」
「鬼か子かの選別ですよ。子なら殺す、鬼なら仲間に迎えます」
 こちらの意見を聞く気はないようだが、どっちの選択もゴメンである。

ユウゴはユキナに目配せをした。ユキナが頷く。
ここは、やはり鬼として通すしかない。
殺されるよりはマシだ。
「俺たちは鬼だ」
「ほう」
 高下は眉一つ動かさない。
「だから、俺たちを殺してもカウントされないぜ。おまえはそういう無駄なことは嫌いなんじゃないか?ほら、こうしてる間に地下に隠れてた子が飛び出してくるかも」
「それなら大丈夫。出口には見張りを立たせてる」
そういって、高下は頷いた。

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