《MUMEI》

「甘い、いい匂いがします」
いただきます、と一口
牛乳の優しい味と、僅かに入れたハチミツの微かな甘さが口の中に広がって
ファファ好みの、味だった
「正博君、とっても美味しかったです。ありがとです〜」
甘く、柔らかいミルクの香り
ソレがファファそのものの様で
無意識に、田畑は笑みを浮かべた
「お前って、何でも美味そうに食ってくれるよな。何か、いいな」
何気ない田畑の言葉にファファは首を傾げ
どういう事かを表情で問うてくる
だが返してやる事はせず、田畑はファファの頭を撫でるばかりだ
「ファファがごはん食べると、正博君嬉しいですか?」
穏やかな笑みを浮かべる田畑へ
ファファが小首を傾げながら問うてみれば
「はい、嬉しいです」
と、ファファの口調を借りての田畑の返答
ソレが何となく可笑しく感じ、田畑は尚も笑う声を漏らす
その場にある柔らかで甘い雰囲気に暫く浸り
そして、何かを思い立ったかの様に徐に台所へと向かった
一体何をしに行ったのか、その後をファファも追う
「正博君、何作ってるですか?」
料理ではない何かの作業をする田畑へと尋ねれば
そこでの返答はなく、ファファに突然帽子を被せると手を取って外へと出た
向かったのは、アパート近くの公園だ
「ここに、何かあるですか?」
見る限りでは特別変わったものなどないそこに、ファファが田畑へと小首を傾げる
田畑はそんなファファへと微かに笑んで向けると、台所で作っていたそれを徐に出し
そして何の為にか持ってきていたらしいストローをソレへとつけ、そして息をはいた
辺り一面に広がった大量のシャボン玉
途端にファファの眼が驚きに見開く
「正博君、これ……!」
「さっきお前、シャンプーの泡、興味有り気に見てたから、これどうかなって思ってな」
会話の合間にも次から次へと飛び出していくシャボン玉
それらを作り出すのは田畑のストローで
ファファにはまるで、田畑が魔法使いの様に見えた
「すごいです!沢山沢山ふわふわしてます」
上へと上っていくそれを眼で追いながら
、その声は楽し気で
田畑はファファのその様を見、笑みを浮かべると
やってみるか、とストローをファファへと差し出した
「ふわふわ……」
シャボン玉が作られるソレを受け取り
一息、吹いてみれば
小さなシャボン玉が無数に宙で遊び始めた
面白いかを問うてやれば、返事の代わりにファファは田畑へ向けシャボン玉を吹いて飛ばした
洗いたての髪にそれらが弾けていき
「……帰ったら、風呂入り直さねぇとな」
その手間に苦笑を浮かべながらも
田畑はファファの背後へと回り、ストローを持つ彼女の手を取ると
ソレを銜え、辺り一面にシャボン玉を飛ばしたのだった……

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