《MUMEI》 咆哮ヲアゲテ林太郎は賊が消え去るように大胆不敵に夜闇に逃げた。 ……と、見せ掛けた。 死角になった壁際に身を張り付けて、息を殺して周りが落ち着くまで隠れることにしていた。 「……お止め下さい。」 「君の父上は僕の家に恩義が有るのだよ。」 何とも、上流階級らしい会話に林太郎は鼻で笑うのを堪えた。世の中には舞踏会を楽しめない貴族も居るのだ。 林太郎も其の一人で在る。 だからと云って、こんな薄暗い場所で乱暴に貴婦人と興じるような品位を貶る行為はしない。 「御婦人、夜のお供に其の獣は喧しいのではありませんか。……お手を。」 片手を差し出し、男との間に滑り込ませて婦人を引き寄せる。 習った輪舞の足取りで蔦の隙間を縫い屋敷を離れた。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |