《MUMEI》
愛は会社を救う(50)
由香里とランチから戻ると、副支店長と丸亀が、部屋の隅の応接セットで何事か話し込んでいた。それは、12時に見た光景と全く変わっていなかった。
「二人とも、お昼食べなかったのかしら」
由香里が、少し的外れな心配をする。
午後の始業時間まで、まだ10分以上もあり、デスクにいる社員もまばらだった。
しかし無関心を装ってはいるものの、全員が二人の会話に神経を集中させているのは明らかだった。
「改組はまだ半年先だ。調書の提出先は支店長だと、誰だって思うだろう」
「しかし、その件については、年度末に通達済みだと本社が…」
「聴いとらんぞ。それはいつの文書だ。持って来い」
額を突き合わせて小声で話しているとはいえ、副支店長の濁声はよく響いた。興奮しているのだから、なおさらだ。
丸亀は跳ねるようにソファから立ち上がると、焦った様子で自分のデスクに走った。頼みの山下仁美は、まだ席に戻っていない。

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