《MUMEI》
愛は会社を救う(52)
「ありました、ありました。こちらです」
丸亀に差し出されたファイルの文書を見て、副支店長の表情がみるみる不機嫌さを増していく。
「これは、俺が、見たということか」
「一応、ここに副支店長の印も頂いておりますので、ご覧になったことは、間違いないかと…」
憤然とした表情のまま、副支店長が奥歯を噛みしめる。こめかみが僅かに痙攣しているのがわかる。
「この通りぶ厚い資料の一部でしたので、まあ、見落とされたのではないでしょうか」
泣き笑いのような表情で、上司をなだめる丸亀。それを無視して、副支店長がぶっきら棒にファイルを突き返す。そして、口をへの字に曲げ、険しい眼つきのままようやくソファから腰を上げた。
席に戻る副支店長の背中を見送って、丸亀がほっとしたような表情を見せる。
「リーダー良かったですね。文書が見つかって」
布巾を手にした由香里が、一安心した様子で私に声を掛ける。
「…」
しかし私は、釈然としない気分でそこに立っていた。
やがて仁美も外出から戻り、社員たちは普段通り各々の仕事に取り組み始めた。

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