《MUMEI》
切ないパーティー
不意に、小百合さんの愛らしい声が蘇ってくる…。


−−苦しんでいた私を、助け出してくれたんだ…。

やめて…。

−−…16歳になったら、お嫁さんにしてくれるんだって。

やめて!

−−コウちゃんと、同棲してるの。


やめて。やめて。やめて…。
信じない。信じたくない。


小百合さんの『コウちゃん』が、あの如月 宏輔だったなんて。

信じたくなかった。



「ナナちゃん?」



名前を呼ばれ、私はハッとして、顔を上げた。
私達は、いつの間にかテーブルに座っていて、夕飯のカレーを食べ始めていた。
小百合さんの不安そうな表情が視界に映る。

「大丈夫?全然食べてないけど…どうかした?」

その横には、如月先輩が、真剣な顔をして、私を見つめていた。
私は瞬きをして、笑顔を作る。

「なんでもないよ」

言い切ってから、スプーンを持って、カレーをすくって口に押し込んだ。正直、味は覚えていない。おいしかったのか、それともまずかったのか。
けれど、そんなことを気にせず、私はカレーを食べ続けた。手を止めたら、考えてしまうから。

醜く、暗い『嫉妬』という名の感情に、押し潰されそうになってしまうから。

突然、佐野先輩が、「そういえば」と如月先輩の顔を見遣った。

「お前、バイト増やしたんだって?」

如月先輩はカレーを口に運びながら、「ああ」と頷いた。

「交通整備と、ビデオショップ…それとコンビニ」

佐野先輩は顔をしかめて、「ソーゼツ…」と呆れた声で言う。

「つーか、前の工事現場はどうしたんだよ?」

「割に合わないから、辞めた」

如月先輩は顔を上げずに、サラリと答えた。佐野先輩は頬杖をつく。

「けど、充分生活出来てたじゃん。なにも、3つ掛け持ちしなくても…」

言いかけた佐野先輩の言葉を遮るようにし、如月先輩はスプーンを乱暴にお皿の上に放った。カチャン…と軽い音が響く。その音に、私は肩を揺らした。小百合さんも困惑した顔で、如月先輩と佐野先輩の顔を交互に見比べている。

如月先輩はため息まじりに、呟いた。

「足りないんだよ」

佐野先輩は一度、瞬いて、「なんで?」と顔色を変えず尋ねる。

「パパから仕送り、貰ってんだろ?」

如月先輩は首を振る。

「そのパパから仕送り止められちゃったの!退学したことがバレて」

「バレた…?」

私がぽつりと繰り返す。

『バレた』ということは、つまり、親に内緒で学校を辞めたということ…?
それに、仕送りって?

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