《MUMEI》
体感
手足を拘束されるなど、もちろん初めての体験だ。光は哀願に満ちた目で哲朗を見つめた。
「光さん。警察には言わないって言ってんだから、あんたもそれに従えばいいんだよ」
光は一生懸命頷いた。
「わかってくれたかな?」哲朗が怖い顔で見る。
「ん」
光は必死に頷いた。女は手足を縛られると弱い。男と違い、触られる恐怖。裸にされる恐怖。そして、レイプされる恐怖に身が縮む。
怒りよりも許してもらいたい気持ちが勝る。
「んんん!」
光はもがいた。手足に力を入れてみる。ダメだ。きっちり縛られていてびくともしない。
哲朗が迫った。
「それともう一つ。光さんは、妹を軽蔑の目で見てたね?」
「んんん!」
光は首を振って激しく否定した。しかし哲朗は許さない。
「これから明枝と同じ目に遭わせてあげる」
冗談ではない。光は額に汗が滲んだ。
哲朗が何か持っている。それを光に見せた。
「これが何だかわかる?」
光は首を横に振った。
「カラオケのマイクじゃないよ。電マだよ」
光は目を丸くした。
「この威力を体感してもらうから」
「んんん!」
光は慌てた。哲朗は彼女のシャツをまくる。綺麗なおなかが見えた。
「んんん!」
恥ずかしいし悔しい。哲朗は電マのスイッチを入れて、光のおへそに押し当てた。
「んんん!」
光は泣き顔で暴れた。
「おなかくらいで騒ぐな。妹はなあ、ここに直接突っ込まれたんだぞ!」
電マが内股に来る。凄い振動だ。光はひたすら首を横に振った。
「バカヤロー。ズボンの上からじゃねえぞ。明枝は直接やられたんだぞ。妹がどれだけ悔しかったかわかるか?」
光は何度も頷いた。
「なあ。わかるか、なあ。なあ!」
興奮しているのか哲朗は自制が利かなくなり、電マを光の大切なところに押し当てた。
「んんん!」
光は電マから逃れようと腰をくねらせる。そのしぐさがセクシーで、哲朗はエキサイトしてしまった。
「んんん!」
悔しい。悔しいけど妙な気持ちになってきた。光は自分を疑った。情けない。
「んんん!」
まずい。本気で感じてきてしまった。光は暴れた。
「んんん!」
「悔しいだろ、なあ。犯人は警察には渡さない。俺が成敗する」
そんなこと知らない。今は許してもらうことがすべてだ。光は涙目で訴えた。
「んんん!」
さすがに良心が痛んだか。哲朗はスイッチを切った。
光は汗びっしょりだ。打ちのめされたように横を向いた。
「どうだ。少しは明枝の気持ちがわかったか?」
光は激怒の心を抑え、弱気な表情で頷いて見せた。
「わかればいいんだよ」
哲朗は猿轡に手をかけた。
「悲鳴上げたら殴るよ」
哲朗は光のおなかに拳を当てた。光は素直に頷いた。
猿轡を外されると、光は静かに言った。
「ほどいてください。お願いします」
目的も果たしたことだし、哲朗は彼女の手足をほどいた。
光は作業台から下りると衣服を整え、素早く出口に立った。
「光さん。送りますよ」
「結構です。寄るところがあるので」
「どこですか?」
「警察です」
「警察?」声が裏返っている。
「監禁と、婦女暴行未遂で、あなたを告訴します」
哲朗は震え上がった。
「待ってください光さん」
「来ないで!」
哲朗が止まる。光は怖い顔で睨んだ。
「それ以上近づくと助けを呼ぶわよ」
哲朗は土下座した。
「警察だけは、警察だけは勘弁してください」
「やめてってあたしがお願いしてたのはわかるでしょ。それなのにやめないからよ」
「警察だけは許してください。身の破滅ですよ。恨みますよ」
「今度は脅し?」
「違います、違います。どうか警察だけは、この通りです」
光は直感が働いた。警察に調べられたら困ることがあるのではないか。
「わかりました。今回だけは見逃してあげます」
哲朗は泣き笑いだ。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
何か隠している…。
光は、血が騒いだ。

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