《MUMEI》
クラスの人気者
「ねえ、エリナも食べる?」

 斎藤エリナは顔を上げた。
前の席に座っている中島アンナが箱から一つチョコレートを取り出して口に放り込んでいた。

「食べる」

 言ってエリナも一つ、口に放り込む。

「でさあ・・」

 アンナはメイクを直しながら続きを話し始めた。
多分、彼氏の話だろう。

 アンナとは入学式の席が隣だったことから、なんとなく一緒に行動するようになったのだが、彼女のする話は彼氏かメイクの話だけ。
エリナにとってどうでもいい話題が多かった。

 エリナは話を適当に聞き流しながら教室を見回した。
耳障りな馬鹿笑いが室内に響き渡る。
見ると、一人の男子生徒を中心に、数人の生徒が集まって談笑していた。

「あいつ、一気に人気者だよね」

エリナの視線を追ってアンナが言う。

 あいつとは、三ヶ月前に編入してきた多田コウヘイ。
やたらと陽気で見た目もそこそこ。
やることなすこと、全てが面白く、転校初日からクラスメイトの心をガッチリ掴んだ。

もちろん彼のことを嫌いな奴も中にはいる。
しかし当の本人は、そんな奴らに何を言われてもまるで気にしていないようだった。

「何?エリナってば多田みたいなのがタイプなわけ?」

アンナが目を細めてニンマリ笑う。

「はあ?んなわけないじゃん」

「そう?でもエリナって彼氏いないよね?」

アンナはまた袋からチョコを取り出した。

「いないけど。つーか、どっちかっていうとあたし、あいつ嫌いだし」

「へえ?珍しい。エリナってみんなと仲いいのに」

嫌いというよりは苦手に近い。
 多田と話すといつも何か違和感を感じるのだ。

その違和感が何なのかわからないが、そのわからない感じがエリナをイライラさせる。

「ま、誰でも生理的に受けつけない人っているでしょ」

「まあねえ」とアンナが頷いた時、違うクラスの女子生徒が二人、彼女を呼びにきた。
 アンナは何故か一瞬目を伏せて、「ちょっと行ってくるね」と教室を出て行った。

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