《MUMEI》 ドエス魔人光は、会議室で柴原部長に迫っていた。 「お兄さんが怪しいです。とにかく警察には言わないの一点張りなんですよ。これは妹思いなんじゃなく、警察に調べられたらまずいことがあるんですよ、きっと」 光の燃える瞳を見て、部長は早くも後悔していた。 「まあ、そんなのめり込まなくても」 「何言ってるんですか部長。犯人はまだ捕まっていないんですよ。第二第三の被害者を出さないことが防犯対策室の任務なんじゃないんですか?」 柴原部長は光のやる気に気圧された。 「部長。お兄さんを洗いたいんですけど」 「待ちなさい。洗うなんて刑事みたいなことを」 「何か隠しています」 「それは君のカンかね?」 「あ、まあ、はい」 「素人が見切り発車で捜査するのは、少し行き過ぎではないかな」 光は意見を述べた。 「なら、プロの探偵を雇ってください」 「探偵?」 「そうです。あたし一人じゃ危険だし、プロの私立探偵と一緒に動いて、事件を解決したいんです。途中で投げるのは嫌ですよ」 柴原部長は腕組みした。渋い顔の部長に光は鋭く聞いた。 「予算ですか?」 「よ、よ、よさんか…なんたりして」 光は脱力したが、何とか耐えた。 「いいですよ。部長が渋るなら、あたしは一人で体張ります」 「まあ、待ちなさい。君にそんな危険な仕事はやらせられない」 光は優しい眼差しで部長を見た。 「ありがとうございます。では、優秀な探偵を探してください」 「それまで君は動いちゃダメだよ」 「はい」 柴原部長は、早速探偵探しに着手した。 公園のベンチに、太った男がすわっていた。 噴水の周りで遊ぶ小学生。若い母と小さな子ども。カップル。のどかな風景だ。 太った男は、ボリュームのある髪を触った。髪が逆立っているのは、お洒落なのかズボラなのか、判別が難しい。 男は目を閉じた。妄想が始まった。夜空を彩る星々。月光。 丘の上には十字型の拘束具。そこに生贄が手足を縛られていた。 村一番の美少女が、無理やり連れて来られた。 見張りの男二人が凄む。 「娘。観念しろ。魔人様には逆らえねえ」 「ほどけ、この意気地なし、けだもの!」 「何だと?」 男二人は怒った。娘の胸やおなかを触りまくる。 「やめろ、やめろ!」 「うるせえ!」 そのとき。 風もないのに草木が動いた。 「え?」 見ると、黒い巨漢が現れた。 「わあああ!」 「出ーたー!」 魔人は大きい口を開く。中から赤い大蛇のような舌が二本出てきて、男たちをぐるぐる巻きにした。 「わあああ!」 魔人は、怪しい笑顔で捕まえた男たちに迫る。 「生贄に手出さないって、常識じゃない?」 「すいません!」 「命だけは!」 「だーめ」 しかし、首を振ったときに、視界に生贄の姿が入った。 「およよ」 目が丸い。若い娘は生きた心地がしない。 魔人は、男たちを友好的な顔で見た。 「なかなか、いい!」 「気に入っていただけましたか…どわあ!」 ポイ捨て。もはや生贄しか眼中にない。 魔人はゆっくり美少女に近づいていった。 「イヤ…」 着物を着ているが、こんな怪物相手では、この大切な体も風前の灯火だ。娘はもがいた。 「怯えなくてもいいよん。僕は女の子には優しいから。そんなひどいことはしないよん」 「本当ですか?」 「本当。人間と違って魔人嘘つかない」 娘は哀願した。 「助けてください」 「大丈夫。裸にして全身をくまなく愛してあげるだけだから」 娘は怒鳴った。 「だから、それがひどいことなんです!」 「そうなの?」 そこへ、プロレスラーのような筋骨逞しい男が現れた。 「やめろ、ドエス魔人!」 「何君?」 男は自信満々の笑顔で前に出た。 「俺様の名前は完練英雄。完勝の完に練習の練。英雄と書いてひでおと読む。エーちゃんと呼びな」 人差し指を天に向けてポーズ。 「カンラ、カンラ、カンレン、アホか?」 完練英雄只今参上! 前へ |次へ |
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