《MUMEI》

「ん、どうした? 帰らないのか佐原?」

「かッ‥帰りますよ今‥」

机の脇にかけておいたカバンを肩にかけて、

ガタッ、

と立ち上がったら。

「ん、今何か落ちたぞ‥?」

あたしの机の前にいた先生は、

そう言って屈み込んだ。

そして、

あたしの足元に落ちた物を拾った。

「ほら、これ佐原のだろ?」

「ぁ、うん──ていうか先生‥」

「?」

「何で‥?」

「ん、何がだ?」

「だから、何でそうやってあたしに構うの」

「ま、じき分かるって」

先生は、あたしの手に鍵を乗せてから‥

「じゃ、また明日」

そう言って教室から出て行った。

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