《MUMEI》 クンフーの達人完練英雄は、笑いながら逃げる少女二人を追いかけた。 「待ーてー!」 「きゃははは!」 「逃がすかー!」 これではドエス魔人と何ら変わらない。 噴水の角に足を引っ掛ける。 「けーたー!」 空中を飛ぶ。けたぐりのことらしい。 「何のこれしき飛び込み前転…がっ!」 失敗。地面に前頭部から行ってひとりDDTになってしまった。 「死んだ」 完練がうつ伏せに倒れて額から流血している。近くにいた若い女性が驚いて声をかけた。 「大丈夫ですか?」 完練は顔だけ上げる。 「アールの女」 「はい?」 「アールの女」 「アール?」 「生まれてないか」 草むらに隠れていた柴原部長と部下の平中は、後頭部に一滴汗をかいた。 「平中君」 「はい」 「何がクンフーの達人だ?」 平中は頭をかいた。 「いやあ…」 「あれがいくつもの難解な事件を解決した名探偵か?」 「のはずなんですけど…」 「まあ、人違いではないだろう。あんな男が我が市に何人もいてたまるか」 「ハハハ」 柴原部長と平中は、完練を尾行する。ラーメン屋に入っていった。 柴原部長と平中もさりげなく入った。 「いらっしゃい!」 店長と若い男の店員が一人のこぢんまりとした店だ。 完練は端のテーブルに着き、メニューを見ている。部長たちは少し離れた席にすわった。 「君」完練が店員を呼ぶ。 「はい」 「ここに、ごはんおかわり自由って書いてあるけど、一人何杯までOK?」 「何杯でも…」 そう答えようとした瞬間に店長が厨房から飛んだ。なぜかミルマスカラスのマスクを被っている。 店員めがけて体当たり。 「フライングクロスアタック!」 店長と店員はテーブルやイスをなぎ倒して重なった。 店員はダウン。店長は歯を食いしばって歩き、完練に三本指を立てた。 「一人三杯までです」 「あっそ」完練も蒼白な笑顔。 店員は何とか起き上がると、店長に文句を言った。 「何するんですか、いきなり!」 「おまえもいい加減客の顔覚えろ。あの男に何杯でも自由なんて言ったらなあ、店の米は全部奴の胃の中だ」 「そんなに凄いんですか?」 「聞こえてるぞ」完練は目を細めた。 そこへ80歳くらいの老人が入ってきた。 「いらっしゃい!」 「エビチリソース定食。で、ごはんは少なめね」 「かしこまりました。エビチリ一丁、ごはん軽めで」 「ありがとうございます!」 完練は、老人に小声で話しかけた。 「おじいさん。ごはんおかわりしなよ。おかわりは一人三杯まで自由だから」 老人は笑った。 「いやいや、君みたいに若くないからね。半ライスで十分」 「そうじゃないよ。おじいさんの2.5杯を僕がいただく」 「なぜ見ず知らずの君にご馳走しなきゃならないのかね?」 「ご馳走じゃないって、無料なんだから。おじいさんは半ライスで十分。僕は三杯じゃ足りない。ならおじいさんの2.5杯を僕にくれれば、世の中丸くおさまるというもの」 「お客さん」 店長が来た。 「ほかのお客さまにやたらと話しかけないでくれますか?」 完練は神妙にした。 柴原部長は平中に耳打ちする。 「本当にあれがクンフーの達人か?」 「いざとなれば店長をスカウトしましょう」 「ふざけている場合じゃないよ君」 「すいません」 完練は店を出た。市役所の近くにある土手でひと休みだ。 「部長。平日の昼にこの余裕。サラリーマンではないですね。やはり探偵ですよ」 「会社クビになったばっかりとか」 「何てことを。とにかく作戦開始です」 「周りに警察官はいないだろうね」 完練の目の前を、清楚な女性が横ぎった。 「ん?」 完練は目で追う。すると、いかにもチンピラ風の三人組が、彼女に絡んだ。 「お姉さん。俺らとメシ食わねえ?」 女性は怯えている。 「すいません結構です」 「お高く止まってんじゃねえよ」 完練は立ち上がった。 「あんなナンパのヘタな奴も珍しいぜ」 前へ |次へ |
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