《MUMEI》

「先生──何か困ってたり‥?」

訊いても、

詠子さんは困ったみたいに笑うだけ。

「ぁ、すいません突っ込んだりして‥」

「もし詩郎が、千代子ちゃんに何か相談してきたら‥無理にとは言わないけれど‥聞いてあげてくれるかい?」

「ぇ、あたしが‥ですか‥?」

コクリ、

と小さく頷いて、

詠子さんはあたしの手を‥

そうっと握ってきた。

「あの子を助けてやれるのは、千代子ちゃん──あなただと思うから」

「‥ぇ」

何か、

動悸がした。

「ぁ‥あたしなんか何の訳にも‥」

立つ訳ないんですけど‥。

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