《MUMEI》
出会い
完練英雄は、躊躇なくチンピラに声をかけた。
「君たち、彼女は怖がっているではないか」
「何だテメーは?」
一瞬の隙に女性は、完練の背中に隠れた。
「助けて」
しっとりとした大人の女の声。完練はあっさり言った。
「行っていいよ」
「え?」
三人は怒った。
「邪魔すると承知しねえぞデブ!」
「デブ?」
完練のとぼけた顔が怖い。
「僕の体重で君の生活に何か支障をきたしたかな?」
「ああ、きたしたきたした。息苦しいんだよ」
「何をー!」
完練はいきなり構えた。
「先に言っておくが私はクンフーの達人だよ。アチョー、ハイ!」
「ふざけるな。全然強そうじゃねえな」
すると、笑顔の完練はみるみる無表情になり、一言。
「怪我をするよ」
「何!」
しかし一人が言った。
「そういう表情とセリフはなあ、ブルース・リーだから決まるんだよ」
完練はまた輝く笑顔だ。
「あれ、このパロディわかったの。嬉しい。さては映画通だね?」
「緊張感のねえパクリ野郎だ」
「パクリではない。パロディだ」完練は反論した。
「パクリだパクリ」
「パロディだあ!」と後頭部にハイキック一閃!
一撃必殺。一人がまず完全KOだ。
逃げずにいた女性は、目を見開いた。
「テメーやったな!」
男が突進する勢いに合わせてターンしてのサイドキックがボディに炸裂。
うずくまるところを背中に踵落とし!
「ぎゃあ!」
残りの一人はボクシングスタイル。
「野郎…」
男が左ジャブ。空を切る。右ストレート。完練に簡単に掴まれた。ビシッと顔面に右ストレート!
「がっ…」
怯んだ男のボディに左ミドルキック!
勝負あった。
「強過ぎる」
「逃げろ!」
完練は得意満面でクンフーのポーズ。背後から女性が走って来た。
「ありがとうございます。完練さん」
「カンレン?」
前からもスーツを着た二人の男が歩いて来る。
「893…には見えないが」
柴原部長が聞いた。
「完練英雄さんだね?」
「違う。オレはスタンザラリアートハンセンだ。ウィー!」
平中が笑った。
「ロングホーンですか?」
「なぜ知ってる青年若いのに?」
「知ってますよう」
平中と会話が弾んだところで、部長は話を切り出した。
「完練さん。怒っちゃダメだよ」
「内容によりますよ」鋭い目。
女性が両手で優しく肩を触った。
「怒らないで」
「怒りません」
「ふふふ。あたしの名前は宮戸しおり」
完練は無理に渋い顔をした。
「しおりさんは、この人たちとグル?」
「だから怒らないで」
完練は柴原部長の顔を見た。
「で、用件は?」
「私はこういうものだ」
胸ポケットに手を入れた瞬間バッと完練は部長の手首を掴んだ。
「ピストルならしまいな」
部長は引きつった笑顔で言った。
「君、映画の見過ぎだよ」
完練が手を離す。部長は名刺を差し出した。完練は驚いた。
「市役所!」
「そうだ」
「市県民税払ってないから?」
部長の顔色が変わった。
「ダメだよ君払わないと」
「でもちゃんと消費税払ってますよ」
「消費税と市県民税は違うよ君」
「まあまあまあ」
しおりと平中になだめられて、部長は本題に入った。
「実は、君に解決してもらいたい事件があるんだ」
「ほう」
「レイプ未遂事件なんだが、ウチの女性職員が正義感が強くてね。最後までやりたいと」
「それ市役所の仕事?」完練が高い声で聞いた。
「違う」
即答する柴原部長。完練は何となく察知した。暴走する女性職員。そんな燃える公務員がいるとは。会ってみたい気もした。
「その女性って、若いの?」
「かわいい子よ。あたしには負けるけど」
完練はしおりに笑顔を向けた。
「君に勝てる人はいない」
「完練さん。市役所で話しましょう」
部長が言ってもまだ躊躇している完練に、平中が素早く麻央光の写真を見せた。
「この女性です」
「やります」
「早いよ君」
4人は市役所へ向かった。

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