《MUMEI》
駅にて
次の授業が始まる頃、曇った表情のアンナが一人で戻ってきた。
「どうしたの?なんかあった?」
エリナが聞くが、アンナは「別に」と曖昧な笑みを返すだけだった。
エリナはそれ以上聞くことを諦め、授業の準備をした。
その日の帰り、彼氏とデートだというアンナと途中で別れ、エリナは一人で駅へと向かった。
駅に着くと、運の悪いことにちょうど乗るべき電車が行ってしまった後だった。
仕方なく、駅ビルで次の電車が来るまで時間を潰していると、クラスメイトの小谷と多田を見つけた。
意外な組み合わせだ。
小谷はいわゆる不良。
今まで何度か喧嘩で警察に捕まったこともある。
不良にしては意外と人当たりもいい。エリナともよく話す方だ。
たしか、前に多田のことが気に入らないと言っていたが……。
よく見ると、二人の後ろから小谷の仲間達が頭の悪そうな笑いを浮かべながら歩いている。
この状況から考えるに、どうやら多田は捕まってしまったようだ。
おもしろそう
好奇心に駆られて、エリナは小谷たちの後をこっそりついて行くことにした。
小谷たちに囲まれた多田は、落ち着いた様子で歩いている。
いや、平静を装っているだけかもしれない。
彼らはいつもたまり場にしているゲームセンターに入って行く。
エリナも気付かれないように入るが、彼らは店のさらに奥へと入り込み、見失ってしまった。
その一瞬、多田がこちらを見た気がした。
「えー、つまんないの」
せっかくあの多田が恐がる姿を見られると思ったのに。
エリナはなんとも煮え切らない気持ちのまま、駅への道を辿った。
改札を抜けると、電車がホームへ滑り込んだところだった。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫