《MUMEI》

私の態度が急変したことに、みんなが戸惑い、そんな中、小百合さんが立ち上がり、「ナナちゃん!?」と呼び止めた。そして、今まさに玄関のドアを開こうとしている私の腕を、しっかり掴む。

「どうしたの?急に…」

戸惑いを含んだ彼女の声に、私はゆっくり振り返り、その、彼女が掴んでいる手を、見つめた。

小百合さんの細い指先を見ていると、言いようのない苛立ちが、増してくる。

私は、堪えられなかった。

「触らないで!!汚らわしい!」

ほとんど悲鳴のように叫んで、私は力強く、彼女の手を振り払った。小百合さんは本当に驚いたようで、よろめくように一歩、後ずさる。先輩達も、目を大きく見開いて、私を見つめた。

重苦しい沈黙が、部屋の中に訪れた。

小百合さんは、振り払われた手を、逆の手で庇うように握りしめながら、傷ついた目を私に向けていた。

自分が酷いことをしているような気がして、私は気まずくなり、俯いた。
そして、「さよなら」と言って、逃げるようにドアを開けて、外に駆け出した。




私は夜の闇の中、夢中で走った。
小百合さんの、あの、悲しげな顔が目に浮かぶ…。

やめてよ…。
そんな目で、見ないでよ!!

私は、悪くない。
小百合さんが悪いんだ。小百合さんが…。

如月先輩の隣で、あの子が、幸せそうな顔をしているから。

ひとに言えないようなことをしてるくせに。

なのに、何故、あの子は如月先輩から愛されているのだろう。

憎たらしい。憎たらしくてしかたない。
小百合さんなんて、大嫌いだ。



…いいえ。

本当は、こんな醜い嫉妬に狂っている自分が、一番、卑しくて、惨めで、不様で、だいっきらいなんだ。



混乱する気持ちに気づかないフリをして、私は暗闇を走り続けた。




どれだけ走っただろうか。
闇雲に走っていたから、何故か駅とは逆の方向に来ていた。
荒い呼吸を整えて、周りを見渡す。
真っ黒で誰もいない。私は腕時計を見た。
夜の9時を回っている。周りは住宅街だが、この時間になると、大概、ひとの気配は薄れるものだろう。ひっそりとした静寂に、少し、気味が悪くなる。

そして、私は肩を揺らした。

見覚えのある公園を、見つけたからだ。

そう。
ここで、初めて、小百合さんと出会った…。

あの時は、彼女がどんなひとか、全く知らずにいて、私は、彼女の天真爛漫な性格に、すっかり騙されていた。

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