《MUMEI》
家族
下に降りると、いつの間に帰ったのかテーブルに父が座っていた。
父はチラッと顔を上げてエリナを見ると、すぐに興味を失ったように手元の新聞へ目線を落とした。
父は娘にも、妻にも関心がないようだった。
つまり、家族に関心がない。
どうやら外に女がいるらしいということはエリナも母も分かっていた。
いや、父自身、家族に隠す気はないようだ。
なぜなら、エリナや母がいる目の前で、女と電話をしているのだから。
父にとって関心があるのは、外からの自分の評価のみ。
エリナは黙ってキッチンへ行き、いつものように料理の盛られた皿を運んだ。
母も同様に無言のまま、テーブルへと盆を運ぶ。
そして家族の会話がないまま、夕食は始まった。
よくテレビのドラマで家族団欒というのがある。
昔から、エリナはその意味がよくわからなかった。
家族が揃って食事をとるということが団欒というのなら、今、こうしているこの場が、エリナの家の団欒ということなのか。
くだらない。
これでは一人で食べているのと変わらない。
いや、まだ一人の方がきっと食事の味もわかるだろう。
これが、家族。
静かな空間に食器がぶつかる音と、新聞をめくる音だけが響いていた。
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