《MUMEI》 プロの動き翌朝も二人はトレーニングに汗を流した。 完練は周囲を見渡した。 「毎朝みんな熱心だなあ」 「昼も走っている人多いし、夜は子どもたちが空手を練習していますよ」 「健康的な市だな」 完練はまだ光の眩しいばかりの短パン姿には慣れない。 太陽光線と光の魅力光線のWインパクトで、カウント3寸前だ。 「では約束通り左ジャブを教えよう」 「お願いしますコーチ」 光は構えた。さまになっている。家で練習してきたことがわかる。 とことん熱くのめり込む性格なのか、それとも怖い体験を最近したのか。 完練のプロの直感が働いた。 「左ジャブは、軽く拳を握って、相手の目の下を狙う」 「目の下?」 「顔には急所があるんだ。ボクシングでもK1でも顔の急所を狙っているんだ」 「ふうん」 完練は説明した。 「目の下と顎。あと鼻だな。直撃すればまず戦意喪失する」 光が痛々しい顔をした。 「よく中学生の喧嘩で、顔面殴り合っても勝負がつかないのは、力んじゃって、効いてないんだ。プロは的確にバシッと当てたい箇所を貫く」 完練が左ジャブを放った。 光は目を見張った。速い。重い。 光も打った。完練は構えながら語る。 「軽く拳を握って、相手の顔面に当たった瞬間にギュッと拳を強く握る。 光は首をかしげながら左ジャブを打った。 「それだけじゃない。当たった瞬間に引く。この引きが強く速いと、1秒後にぐわわわんと衝撃を感じるから、コイツとはやめたほうがいいと戦意喪失する」 しかし光は質問した。 「当たった瞬間に拳を握るのと、当たった瞬間に引く。それを同時に行うの?」 「練習しかない」 「はい」 一言で納得した光は、何回も左ジャブを打った。 「何百回と同じ動きを反復練習するから、実戦で出せるんだ。女性が雑誌の連続写真見ただけで、護身術が修得できると思うか?」 「はあ」 一生懸命左ジャブを繰り返す光。完練は横で語る。 「いざ暴漢を目の前にしたら、足がすくんで動けなくなるだろう」 「そうですね」 「手を出すのは最後の手段だ。夜道は一人で歩かない。防犯グッズを常に携帯する。そういうことが大事になってくる」 「でも監禁されたら防犯グッズは使えません」 完練の疑いの目を見て、光は慌てて言った。 「だから明枝さんみたいに」 「そっか」 「悔しいじゃないですか。暴力で屈服しちゃうなんて。自分が悪くないのに謝るしかないですから」 完練は腕時計を見た。 「君は覚えが早い。明日は右ストレートを教えられる」 「右ストレート?」 汗が光る彼女は、たまらなく魅惑的に映る。 完練がベンチにすわると、光も真横にすわった。正直嬉しい。 「相手が格闘技を経験したことがない素人なら、左ジャブと右ストレートだけで終わる」 「男でも?」 「女性は殴っちゃダメだよ」 「紳士なんですね」光が白い歯を見せる。 「変質者だと思った?」 「何でそうなるんですか?」 苦笑して俯く光。綺麗な脚。胸もある。魅力的なボディだ。完練は光と目が合うと、慌てて空を見上げた。 光がポツリと言った。 「完練さんて、口固いですよね?」 「コンニャクより固いよ」 「じゃあ言えない」 「嘘嘘。ダイヤモンドよりも固いよ」 光は真剣な表情で話した。 「実はあたし、明枝さんのお兄さんに監禁されて、脅されたんです」 さすがの完練も目を丸くして驚いた。 「監禁?」 「スプレーで気を失って、目が覚めたら手足縛られて猿轡っていうの。かまされてて。ああなると言うこと聞くしかなくて。凄く悔しいし、自分が情けなかった」 完練は拳を握った。 「許せんなあ」 光は完練の腕を触った。 「だれにも言わないで。大問題になっちゃうから」 完練はよぎった。 「犯行の手口が似ている」 「完練さんもそう思います?」 光と分かれた完練は、公園へ行った。ベンチにいる男に素早くメモと札の入った煙草を渡すと、立ち去った。 前へ |次へ |
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