《MUMEI》
多田と小谷
次の日。

 学校へ行くと、教室から小谷の笑い声が聞こえてきた。
中を覗くと、なんと小谷と多田が楽しそうに話しているではないか。

 驚きながら教室へ入ると小谷が「よう」と声を掛けてきた。
挨拶を返すと、彼はすぐに多田の方に向き直って、談笑を続けた。
 一方、多田には殴られた痕どころか、かすり傷一つないようだ。 

 なんで?

 あの状況で多田が無事であるとは考えられない。
どうやってあそこを切り抜けたのか。
なんで二人は仲良くなっているのか。
もしかすると、多田は小谷の弱みを握っているのか。

 色々考えていると、いつの間にか教室に来ていたアンナに「おはよ」と肩を叩かれた。

「はよ」

 挨拶を返しながら振り向くと、彼女の頭に巻かれた白い包帯が目に入った。

「どうしたの?それ?」

「ああ、これ?昨日の夜さ、メール打ちながら歩いてたら、見事に電柱にぶち当たっちゃって。
マジ、ダサいでしょ」

アンナは頭を掻きながら笑って言った。

「電柱に?毎日メールしながら歩いてて、そんなこと一度もなかったのに?」

「まあ、あれだね。なんだっけ?猿も木から落ちる?みたいな」

エリナが笑っていると、クラスメイトの女子が近づいてきた。

「あのさ今日の放課後、多田達とカラオケ行こうって言ってんだけど、エリナも行こう?最近エリナとカラオケ行ってないしさ」

その内の一人がチラリとアンナを見る。
すると、アンナは慌てて頷いた。

「ああ、いいね。あたしも久々だし。ちょっと流行乗り遅れ気味だし。もちろんエリナも行くでしょ?」

 嫌だ。

「いいよ」

 心とは逆の答えを返しながらエリナは笑顔を作る。

「じゃあ放課後、忘れないでね」

そう言うと彼女は一瞬、鋭い目つきでアンナを見たかと思うと、他のトモダチにも声を掛けに行った。

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