《MUMEI》
水族館
(ここが…水族館…)


俺は周囲を見渡し


無意識に、口が開いていた。


中にあったのは、たくさんの水槽と、たくさんの、魚達。


旦那様は、俺にたくさんの図鑑を見せてくれた。


だから、俺は魚に関する知識もそれなりにある。


だが…


(実際見ると…すごいな)


その迫力に、俺は圧倒されていた。


「祐也? そろそろ進まない?」

「え? …あれ?」


(…大人組は?)


志貴の声に、俺はやっと現状を把握した。


俺が入ってすぐのコーナーで立ち止まっている間に、大人組は先に行ってしまったようだ。


「もしかして、水族館、初めてか?」

「うん」

「マジ?」


からかうように言った祐も、他の子供組も、本気で驚いていた。


(仕方ないだろ)


旦那様が亡くなった後、俺は『普通の日常生活』と『普通の学校生活』を学ぶのに必死で


『普通のレジャー施設』に関する知識は少なかった。


(それも、実際行った事無いしな)


動物園も、遊園地も行った事が無い、俺だった。


「じゃあ、今日は楽しみましょうね!」


志貴が俺の腕を掴んだ。


…反対側の腕は、激戦の末、頼が掴んできた。

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