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《MUMEI》 まさか俺が!海――勇斗は、いつものように、海を見つめている。場所は、福岡市の「海の中道」。 博多湾をグルッと囲むような、砂州〈さす〉。この全国でも珍しい、文字通り「海の中道」を渡ると、志賀島に着く。 その昔、中国・漢朝から日本に送られた「金印」〈「漢委奴国王」〉が発見された島で有名だ。 〈ザザ―‥ザザ―‥〉寄せては返す波の音を聴きながら、爽やかな海風が何とも心地よい。 「海だ‥‥俺は海のお陰で、命を救われた。そして‥‥海のような心の広いアイツのお陰で、生きる希望を取り戻せたんだ」―― 「あなたは、鬱〈うつ)病です」「えっ‥‥」―― 心療内科の診察室。思いもかけない医師の言葉が、勇斗の胸に刺さった。(この俺が、『うつ病』だと?‥‥そんなバカな!) 今から4年前の、2005年3月のある日、上司から呼ばれた。「碇(いかり)君、今度うちの会社もいよいよ東京に進出することになってねぇ。ぜひ君に行ってもらいたいんだよ」 九州を地盤とする小さな雑誌社が、いよいよ首都に進出だ。木村が勤める会社は、グルメ情報やお出かけスポットなどを紹介する、情報誌。 28歳、入社6年の碇勇斗は、若手中堅の雑誌記者として九州中を駆け回り、その行動力もさることながら、抜群の企画センスと明朗快活な性格で、社のけん引力的な存在だった。 そんな勇斗が、未開の地、東京へ勇んでわずか半年で、変わり果てた‥‥本人も気付かぬうちに、「心の病」が彼を蝕(むしば)んでいったのだ。 うつ病――ストレス社会と言われる今、急速に増加している現代病だ。 勇斗は病院を出た。自分には縁のない、無関係だと思っていた病名を告げられ、ただ呆然と立ち尽くしていた。 次へ |
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