《MUMEI》

『桜庭さん…お燗を1本浸けてくださいな…』



『………。』



桜庭は無言で〆華から徳利を受け取ると、ノソりと立ち上がって菖蒲の間を後にした。



それは何かしらの感情を無理に押し殺しているような…



妙に存在感のある立威振る舞いだった。



(不気味な男だ…)


兼松は思った。



『あの桜庭とかいう奴は何だ…?


…えらく無愛想な男だな…』



兼松は、座に戻る〆華に尋ねた。



『桜庭は、私共の付き人でございます…


…何か、お気に召しませんか…?』



〆華は正座の裾を直しながら応えた。

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