《MUMEI》 サイコロ野球拳西島は、自信満々の笑みで客にカードを切らせると、言った。 「はい、では、あなたが一枚選んでください」 「え?」 「そのカードが先ほどのカードです」 皆大注目。選ぶ客は手が震えた。もしもスペードの6だったら怖い。 選んだ。 「では見せてください」 思いっきりハートの8。 一瞬の静寂。西島は皆に聞いた。 「どうです?」 「違う」と複数の客が答えた。 「はい、皆さん。最初に、だれにでもできる手品と言いましたね。これは引っ張るだけ引っ張って、実はインチキというオチです」 「なーんだ!」の大合唱。 「皆さんも余興でやってみてください。ひんしゅく買って殴られても自己責任ということで」 光と完練は顔を合わせた。 西島がいきなり張り切る。 「では、いつものヤツ、行っちゃいますか?」 「オー!」 常連客か。あちこちで大拍手が起きた。今度こそ怪しいゲームかもしれない。光と完練は緊張した。 「ミュージック、スタート!」 派手な音楽と五色の照明。光が回転する中、ビリヤードの台のようなものが出てきた。上にサッカーボールくらいの大きなサイコロが二つ。 何より驚いたのは、壁に手枷足枷が付いている。 「何あれ?」光が不安に思った。 西島は得意満面で言った。 「初めてのお客様もおられると思いますので、簡単にルールを説明します」 「いいから早く始めろい!」 酔っ払いの一団が叫んだ。西島は余裕の笑みだ。 「あ、せ、ら、な、い」 常連客は笑った。 「実は、サイコロ野球拳です。ジャンケンではなくサイコロでやります」 見えてきた。光は緊迫した。 「で、男性が負けたらビールをグラス一杯一気飲み。男の裸なんか見たくないですからね」 「昔テレビでやってたサイコロ野球拳を真似したんだな」完練が呟いた。 「見てたのそんなヤらしい番組?」 「友達から聞いた」 「友達ね」 光は呆れた。西島は説明を続ける。 「で、女性が負けたら一枚一枚脱いでもらいます。女性は男性を酔い潰してギブアップさせないと、全裸を晒すことになるので、頑張ってサイコロで多い数字を出さなければいけません」 光は怒った。 「完全に違法じゃん」 「ここは乗ってる客のふりをしよう。おおお!」 完練はほかの客に混じって歓声を上げた。光は白けている。 「白けているとステージに上げられちゃうよ」 「冗談じゃない。そうなったら完練さん助けてよ。絶対やーよ」 かわいい! 完練はますます光に惚れた。 「では、最初に、男性の希望者」 「はい、はい!」 大勢の手が上がった。西島は最前列にいる体格のいい男を選んだ。ほかの客は露骨に残念がる。 ステージに上がった男に西島が聞いた。 「お名前は?」 「坂本です」 「柄悪いですね」 皆笑った。 「いえいえ。西島さんには負けますよ」 「俺はまじめよ」 西島は、再び会場を見渡した。 「では、次、女性の希望者は…さすがにいないですね」 光は目が合わないように俯いた。胸がドキドキする。 「大丈夫だよ断ってあげるから」 完練は頼りになる。ポイントアップだ。 会場をぐるりと見回して、若い女性客たちを緊張させた西島は、最前列の浴衣ギャルを選んだ。 「君!」 先ほどの派手目なあの子だ。完練はほかの男性客と一緒に歓声を上げた。 光に睨まれる。 「演技だよ、ひゅーひゅー!」 ポイントダウン。 浴衣の女性は真っ赤な顔をして嫌がった。 「イヤです、イヤです、無理無理」 「お名前は?」 「本当に勘弁してください」 「名前だけでも聞かせてよ」 「あ、梓」 西島はいきなり手拍子を先導した。 「あーずーさ、あーずーさ!」 梓コールの大合唱。完練も一緒に叫んでいる。光と目を合わせない。 「あーずーさ!」 梓はびっくりして会場を見た。 「梓チャン。とりあえずステージに上がって」 西島に言われ、彼女は仕方なく上がった。 浴衣はそそる。大歓声だ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |