《MUMEI》 手枷足枷光の顔はさらに曇った。 「絶対まずいよこんなの」 「まあ様子を見よう」 「完練さん。あの子が襲われたらどうすんの?」 「助けるよ」 「え?」 光は完練の横顔を見た。真剣な表情だ。酔っ払いの一団とステージの梓を見ている。 臨戦態勢の目だ。 (完練さん…) 光も覚悟を決めて緊張した。 ステージでは、西島が梓に聞く。 「さあ、梓チャン。断崖絶壁ですねえ。どうします?」 「ギブアップします」 「ブーブー!」 予想通りのブーイングの嵐。 西島が真顔で言う。 「梓チャン。このまま一矢報いることなく負け逃げして悔しくないの?」 「悔しいですよそりゃあ」 「まあ女の子の場合、一矢報いるはずが、返り討ちに遭って一糸纏わぬ姿にされても洒落にならないからね」 笑いが起きたが、酔っ払いの一団は野次を飛ばす。 「いいからさっさとやれよ!」 梓はムッとしたが、怖いから変に刺激したりはできない。 西島が梓と会場に言った。 「ではスペシャルルールを適用しましょう」 「スペシャルルール?」 「一発勝負です。梓チャンが勝てばゲーム終了。もしも梓チャンが負けたら、そこの手枷足枷に手足を拘束され、脱がされてしまう」 会場は異様な雰囲気に包まれている。 梓はおなかに手を当てて考えていたが、言った。 「やります!」 大歓声。口笛の嵐。 音楽が鳴る。坂本がふる。3。梓は勝ちを確信したか。笑顔でサイコロを投げる。2! 「嘘!」 梓はショックでしゃがみ込んだ。坂本はガッツポーズ。皆から声援を浴びている。 梓は西島に助けを求めた。 「ギブアップはダメなんですか?」 「ないない。あとは坂本さんに哀願するしかないよ」 梓は唇を噛んだ。 「悔しい。凄く悔しい!」 しかし梓は西島に手を取られ、壁にある手枷足枷で手足を拘束されてしまった。 坂本が歩み寄る。梓は身じろぎした。 「待って、待って。ここで全裸はやだ。許してくれたら、あなたにだけは見せてあげるから」 「マジ?」坂本の表情が揺らいだ。 「マジです」 「独り占めは許さねえぞ!」 また酔っ払いの一団が騒いだ。 「許して、お願いだから」 梓につぶらな瞳で見つめられた坂本は、一言。 「じゃあ、別室に二人きりで」 「許してあげますか?」 西島が言った瞬間に酔っ払いの一団が立ち上がった。 「ざけんなあ!」 ステージに上がって来る。西島は慌てた。 「ダメです、ダメです」 だが、西島の制止を振り切り、数人がステージの梓めがけて突進。 「ふざけんな!」 坂本も止めたが突破された。完全に興奮した酔っ払いが梓に襲いかかる。 「西島さん助けて!」 梓の悲鳴。 「早く助けて!」 ジャンピングニーパット! 酔っ払いが吹っ飛んだ。完練英雄が梓の前に立つ。 「テメー邪魔するな!」 「ハイ!」 ボディにフロントキック! 素早くターンしてバックパンチ顔面。 「やべ、用心棒がいた、逃げろ」 会場は騒然。 光はその隙に梓の手枷足枷をほどいた。 「あなたは?」 「逃げましょう」 二人はその場を離れた。 「きょうはお開きです、すいません」 西島が客を外へ出す。坂本も手伝っている。 完練は光と梓を探した。別室の長イスに二人はすわっていた。 「大丈夫か光?」 「あたしは大丈夫」 梓はバスタオルを肩に掛けられ、俯いていた。 光が言う。 「ダメですよう、あんな危険なゲームに参加しちゃあ」 「はい…」 そこへ西島が来た。 「あ、どうも、ありがとうございます」 頭を下げる西島に、光が怒った。 「あんな危ないショーを、毎晩やってるんですか?」 西島は煙草を加えた。 「あんた、刑事さん?」 「違いますよ。でも、今後もふざけたショーを続けるなら、通報しますよ」 西島が責められているので、梓が言った。 「実は、あたし、さくらなんです」 「え!」光は目を丸くした。 「あの恥じらいは演技?」完練も驚く。 「はい」 前へ |次へ |
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