《MUMEI》

「釘これ?」
ルナの差し出して来た釘は見たままの工具用の釘だった。


「そんなの使ったら突き出る、こっちの美術部専用棚に入ってるやつを使う。」
通常の釘とは違い、キャンバスを張る時はピン程度の小さい釘を使用する。
歴代使われてきた木枠達は穴だらけで、どれだけ上手く穴を避けて美しく張れるかが試される。


「嗚呼、そうか。」
ルナは感心した様子で一般の釘と大きさを比較している。


「あんた、美術部員じゃなかったの?」
こんなこと、美術部に入れば一番に教えてもらうことだ。


「進学校で、部活には入ってなかったから。選択教科でしか美術は取れなかったし、油絵も昔触ったくらいだ。」
成る程と胸の内でなづきは納得した。
決して口には出さないが。


「進学校に入っていたならここに入らなくても……」


「別に学校は何処だって良かった。絵が描ける環境さえ揃っていれば。」
なづきを遮るようにルナは呟いた。


「ここが良い環境とは思えないけどね。」
皮肉が零れる。


「なづきは高望みするタイプだと思わなかった。」
失望したような口ぶりになづきは不快になる。

「今、不機嫌になった。」

ルナに見破られた。


「ああいうとこで一人で居るのが楽でしょう。」


「友達居たよ。」

友達……そんな人間味のある言葉がルナから上がるとは思わなかった。

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