《MUMEI》
羞恥プレイ
梓がさくらとなると、話は違ってくる。一気に違法性は少ない。
西島は説明した。
「あの坂本もスタッフです」
「なるほど、一応安全というわけか」
完練は感心していたが、光は納得しない。
「でも、ああいう酔っ払いがステージに乱入して、彼女にもしものことがあったらどうするんですか?」
「あれは計算外だった」
「計算外じゃ済まないですよ!」
光の詰問に西島は渋い顔をした。
梓は二人に頭を下げた。
「助けていただいて本当にありがとうございます。脱がされるのは覚悟したけど、あの勢いだと犯されちゃうと思って凄く怖かった」
「そんなことさせない」
即答する完練を光は睨んだ。
「何、彼女のボディガードでもやるの?」
「そういう話ではなく」完練は焦った。
いろんな怒りが重なり、光は西島への詰問をやめない。
「今後もふざけたショーを続けるんですか?」
西島は地を出して話した。
「お嬢さん。ふざけたショーってどういう意味?」
「ふざけたっていう言い方が気に入らないなら、過激なショーですよ」
「続けたらどうなんの?」
「開き直らないでください。通報しますよ本当に」
西島は煙草をふかした。
「じゃあさあ、歌でも聴かせるの。この不況で。客集めるのに商売人はあの手この手なのよ。刑事さんにはわからないよ」
「だから刑事じゃないって」光が睨む。
梓もバッグから煙草を出した。完練の顔めがけて思いきり煙を吐く。
「あああ!」
完練が急に長イスから転落した。びっくりする光。
「どうしたの完練さん?」
後ろ盾を失った光は、慌てて立ち上がろうとしたが、西島に腕を押さえられた。
「ちょっと何をするの!」
梓は光の顔にも煙を吐いた。
「やめて…」
力が入らない。意識が朦朧としてきた。光はステージに連れて行かれ、壁の手枷足枷に手足を拘束されてしまった。
浴衣姿で無抵抗は怖過ぎる。光はもがいた。
「やめて、ほどいて!」
西島が迫る。
「刑事さん。取引しないか?」
「だから刑事じゃないって言ってるでしょ!」
「じゃあ、婦人警官か?」
「違うわ」
「囮捜査だろ。とぼけるなら浴衣脱がすぞ」
「待って、待って!」
西島が浴衣の帯を掴んだ。光は慌てた。
「ちょっと待ってください!」
「じゃあ本当のこと言うか?」
「言います」
西島は帯から手を放した。
「ふざけた答えだったら羞恥プレイだぞ」
「何よしゅうちプレイって?」
「西島さん!」
梓が口を挟んだ。
「その子が刑事だったらヤバいよ」
「そうだな」
光は迷った。刑事と思ってもこの扱い。ただの市役所の職員と知ったら、かなり危険だ。
「取引って何?」光が強気の目で聞いた。
「手を引いてほしい。卑猥なショーはもうやめるからよ」
「本当?」
「本当だ」
光は深呼吸すると、言った。
「あたしは、市立探偵よ」
「私立探偵?」
西島も梓も驚いた。
「あのデブゴンもか?」
「だれがデブゴンや?」
「あああ!」
完練を指差して西島が叫んだ。
「私は泣く子も笑う迷探偵。完練英雄であーる」
「何で?」梓が目を丸くした。
「僕はプロだよ。あんな煙を吸うわけないでしょ」
光は小声で呟いた。
「悪かったわね、素人で」
西島は焦った顔で言った。
「もう卑猥なショーはやめる。それでいいんだろ?」
完練が厳しい表情で返事をしない。すると、梓が光のもとへ走った。
「え?」
梓は光の帯をほどき、浴衣の前を開ける。
「ちょっと待って何するの!」
赤面する光のショーツを梓は両手で掴んだ。
「わあ、たんま!」完練が叫んだ。
「あなたたち、恋人同士じゃないわね。てことは、見たことないんでしょ?」
「何言ってんだおまえ?」西島のほうが怖じ気づいた。
「動くと下ろしちゃうよ!」
「わかった、取引しよう」完練は額に汗を滲ませた。
光も身動きできない。西島に見られるよりも、完練に見られるほうが恥ずかしい。

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