《MUMEI》
理不尽な世界
夏休みだというのに、駅は混雑していた。
たくさんの行き交う人達と、その賑やかな話し声の中で、私と佐野先輩は向かい合ったまま、黙り込んでいた。

「小百合さんが、なんで…?」

沈黙を破った私に、佐野先輩は重々しい口調で説明し始めた。

「この前、宏輔の親が急に帰国したらしくってさ…でも、あいつは…ホラ、バイト行ってて。部屋に一人でいたサユリちゃんを、不審者だって警察に突き出したみたいなんだよ」

警察…?

「それで、小百合さんは…?」

不安げに尋ねると、佐野先輩はため息をついた。

「警察で身元調べられて、すぐに親が迎えに来たんだって。宏輔から電話貰って、急いでサユリちゃんを引き取りに行ったんだけど、ちょっと遅かったみたい…」

「…そんな…、如月先輩は…?」

「あいつ、今ちょっとヤバくて。ほら、サユリちゃん、未成年じゃん?なのに同棲とか…しかも、ガキまで作っちゃって。なんかイロイロ親同士で揉めてるらしいんだ」

「揉めてる?」

「サユリちゃんの親がカンカンで、娘を誘拐・監禁、婦女暴行で子供まで孕ませてって…宏輔のこと訴えるって言い出したんだって。被害届、出されたらしいよ」

訴える?被害届?
誘拐?監禁?
婦女暴行…?

私は眉を吊り上げた。

「なにそれ!?話、おかしくないですか?」

だって二人は、自分達の意思で一緒に暮らしていた筈だ。それに婦女暴行って、そんなの小百合さんの顔を見たら、合意の上だってすぐわかる。逆に、彼女の継父の方こそ、その容疑があるっていうのに。
あまりに理不尽で、理解出来ない。
佐野先輩は力無く首を横に振る。

「だから、サユリちゃんは未成年だから…社会から見たら、二人がやってきたことは、そう捉えることが出来るんだよ」

私は呆然とした。

確かに、如月先輩と小百合さんの関係には、私も激しい嫌悪感を抱いていた。でも、それは私の子供っぽい嫉妬心から生まれたものだ。

あの二人の気持ちが、法律で裁かれるような罪には、どうしても思えない…。

「二人は、どうなっちゃうんですか…?」

佐野先輩は肩を竦めてサラリと答える。

「サユリちゃんは間違いなく中絶させられるだろうね。宏輔の方は、何とかなるでしょ」

「何とかって…だって訴えられたら」

私が困惑しながら呟くと、佐野先輩は空を見上げてため息をついた。

「訴えられたって、悪意があったわけじゃない。多分、示談になるんじゃない?あいつの親なら、それくらいの金はあるだろうし…まあ、お互いに、二度と関わらないって誓約書を書かされて丸く収まるだろ」

お金で、解決するってこと…?

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫