《MUMEI》
カラオケにて
放課後、エリナは多田を含めたクラスのメンバーと連れ立っていつものカラオケ店へと歩いた。
メンバーは十人程度で、その中心に多田の姿がある。
何故か、多田の姿がやたらと目にとまるのが気に入らない。
店に到着して部屋に落ち着くと、各々が勝手に行動を始めた。
アンナがドリンクを選んでいたので、エリナは一緒にメニューを眺めた。
すると、いつの間にか隣に多田が座っていることに気付いた。
「あ、俺、コーラにする」
多田はアンナの持つメニューを見るために、エリナの前へ無理やり身を乗り出した。
「多田はコーラね。エリナは?」
多田の声を聞きつけた女子が聞いてきた。
「じゃあ、カルピス」
「あたし、ジンジャーで」
エリナの声の後にすかさずアンナが続ける。
彼女はオーケーと言って、次の注文を取りに行った。
すでに部屋には爆音で曲が流れている。
難聴になりそうだ。
「ねえ斎藤って、みんなと仲良いいのに、何故か俺、あんまり話したことない気がするんだけど」
大声で多田が話し掛けてきた。
ほとんど怒鳴っている感じだ。
「そう?」
エリナも怒鳴り返す。
「いや、なんか俺のこと避けてるじゃん?俺ってば、なんかした?」
多田は、前髪を触りながら首を傾げた。
その仕草は並の男子がすると確実にキモいと言われるだろう。
「別に」
ただ、嫌いなだけだよ。
最後の言葉は心の中で呟いて、エリナは携帯を開いた。
画面にはメールも着信も何も表示されていなかった。
「エリナ。これ、これ歌って」
突然そう言われて指差された曲は、妙な振りが、妙に受けて微妙にヒットした妙な曲だった。
「もちろん振りつきで!」
面白がった男子が言う。
なんでこんな変な曲をあたしが・・・
しかし、ここで断ると間違いなく場を盛り下げるだろう。
「じゃあ、あんた達も一緒に踊りなよ?」
仕方なくそう言うと、エリナに曲を勧めた二人は楽しそうに立ち上がった。
こんなの何が楽しいんだろう。バカらしい
そう思っているうち曲が始まり、バカらしいと思う気持ちを抑えてなんとか歌いきることができた。
曲が終わってソファに戻ると、また多田が不思議そうな顔でエリナを見ていた。
マジ、ウザいし
エリナはその視線に気付かない振りで、ソファに腰を降ろした。
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