《MUMEI》

「あんた、独りか」

「いいえ──」

桃子‥母さんがそう言った時。

もう1人、今度は男が出て来た。

「‥父‥さん‥?」

訊いたら、男は黙って頷いた。

「───────」

オレの、父さん‥。

「ありがとう、林檎──」

「ぇ‥?」

何で礼なんか‥。

「オレは何もしてねーよ」

「いいや、そんな事はないよ」

「ぇ‥」

「待っていてくれたんだろう? ずっと──」

「‥‥‥‥‥‥‥」

親、ってのは‥何でもお見通しらしい。

「ありがとう」

「‥名前は」

「──梨央」

「桃子に梨央、な」

覚えとこ。

「ねぇ、林檎──」

「ん」

「家族は──」

「5人」

「‥?」

「ユズハとバナナと、クルミと‥それから──アンタらもだ」

モモコと、リオ。

「私達、も‥?」

「にしても、よく分かったな‥オレの居場所」

「ずっと捜していて‥やっと──この町にお前がいる事が分かったんだ」

「やっと‥?」

「ぁぁ‥」

父さんが頷く。

母さんも、小さく頷いた。

「ずっと捜していたの。ずっと──」

「ずっと‥、か」

オレは全然、そんな事知らなくて。

勝手に、捨てられたとか思い込んでた。

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