《MUMEI》
危ない橋
光は緊張した。もしも魔人が勝ってしまったら、自分は無事では済まない。この大切な体を好きにされてしまう。
完練は魔人のボディにキック。かがむところを脳天にエルボー!
「やったね?」
魔人が反撃。完練の両足を素早く掴んでひっくり返すと、力任せに大回転。
「ジャイアントスイング、ジャイアントスイング!」
そのまま遠くに放り投げた。
「どわあ!」
「口ほどでもないな」
まずい。光はおなかに手を当てて蒼白になった。魔人が怪しい笑顔で歩み寄る。
「何逃げてんのう?」
光は両手を出した。
「待ってください。ひどいことはしないで」
「だーめ」
完練が忍び足。背後からスリーパーを狙うが、魔人が飛んだ。まさかのカンガルーキック!
「だああ!」
完練は吹っ飛んだ。光は生きた心地がしない。魔人が走って来る。
「いただきマンモス!」
古い。
「キャア!」
光は反射的に右ストレート顔面!
「がっ…」
入った。光は驚いて自分の拳を見ている。
今がチャンス。完練が背後からジャンピングニーパット!
「NO!」
完練が目を剥いて髪を振り乱す。なぜか金髪。
「イーチバーン!」
叫んだ。
助走をつけてドエス魔人に突進。右肘を鋭角的に曲げて顔面に叩きつける。
「アックスボンバー!」
「あーれー!」
魔人は急坂を転落した。
「大丈夫ですか姫君様」
「ありがとうございます。助かりました」
光は抱きつかんばかりに完練の両腕を握った。
「君の名は?」
「光です」
「ひかり。いい名だ」
「完練さん」
「なぜオレの名を知っている?」
「完練さん」
「あっ」
完練は慌てて起きた。タクシーの中では、光が冷たい目で見ている。
「もうすぐ市役所着くよ」
「わかってる。寝ていたわけではない。考えごとをしていた」
「どうせ明枝チャンか梓の裸でも妄想してたんでしょ」
「人を変態みたいに言うのは良くないよ」
「じゃあ何を考えてたの?」
「光のことだよ」
「よく言うよ。だれも信じないよ」
光は一旦窓の外を見たが、また完練を見つめた。
「じゃあどんな場面を思い浮かべてたの?」
「右ストレート!」完練は右拳を突き出した。「決まったなと思って」
光もかしこまった。
「それは、完練さんのおかげよ。あ、助けてくれてありがとうね。お礼言ってなかった」
「ドエス魔人になんか触らせないよ」
「ドエス魔人は言い過ぎだよ」光は笑った。「西島さんはそんな悪党じゃないでしょ」
完練は額に汗。
「あ、そうだな」
市役所に到着。
二人は会議室に急いだ。完練が部屋に入ると、明枝が満面の笑み。しかし続く光を見て一瞬真顔になり、慌てて笑顔をつくった。
「光さんも一緒だったんですか?」
早速4人で話した。
「説明は明枝さんにしてもらおう」柴原部長が言った。
「何から話していいか。あたしが前バイトしてた会社の先輩で美香さんて言うんだけど、家行ったら会社辞めててね。怪しいバイトしてたんですよ」
明枝は回想シーンを思い浮かべながら話した。
「明枝。バイトしてみない?」
「バイト?」
「30分で8万円稼げるよ」
「怪しいバイトはヤですよ」明枝は笑った。
「運び屋よ」
美香の言葉に、明枝は顔を曇らせた。
「いやあ、あたし、そういうのは、ちょっと」
「バカね。薬じゃないわよ」美香は明るく笑う。
明枝は、身の危険を感じ、とっさに芝居をした。わざと有頂天な感じで話す。
「お金は欲しいけど、危ない橋を渡る仕事ならヤですよ。怖いの嫌いだから」
「大丈夫よ。あたしが簡単にできて安全だったから」
そう言うと、美香は書類の入った袋を見せた。
「市役所から盗んだ個人情報よ」
「嘘!」明枝は目を丸くした。
「盗んだのはあたしじゃないよ。あたしの役目は運び屋。条件は若い女。なぜかというと、受け渡し場所が女しか入れないところだから」
「銭湯?」
「違うわよ」
明枝は胸が高鳴った。

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