《MUMEI》 「──ほら」 那加は病院の裏手にある桜の木を示して、 言った。 「綺麗でしょ?」 ふんわりと、 笑って。 那加は、 嬉しそうに桜を眺める。 「あたしがここに来たのも、こんな桜の季節だったよね」 「ぁぁ‥」 あの頃、 那加はまだ小5だった。 学校に行っても、 腹痛で保健室で過ごす事が多かった那加。 俺はただ、 那加の側にいてやる事しか出来なかった。 那加の痛みを、 消してやる事は出来なかった。 ‥今も。 「日向?」 「ぇ」 那加が俺の顔を覗き込んでいた事に、 やっと気付いた。 前へ |次へ |
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