《MUMEI》
冬の夜
木枯らしの吹く肌寒い十二月の初旬。
疎(まば)らに行き交う夜の街道を、一人寂しく歩く青年が居た。
彼の名前は霧桐龍之介(むとうりゅうのすけ)。
高校を卒業し、都会の大学へと進学を決めた彼は、親元を離れて一人、未知なる都会で一人暮らしをしていた。
初めこそ右往左往の毎日で、大学へ行って、帰りにアルバイトをし、生活費などを貯めてクタクタになって家路に着く。
そんな事の繰り返しで、自分が想像していたキャンパスライフなど夢のまた夢と落胆する日々だった。
そんな生活にも慣れ、今年で三年目。
周辺地理も、今ではどこに何があるのか、即答できるまでにはなってきた。
彼は今、今年の冬をどう過ごそうかと悩んでいた。
大学で出来た友人は彼女と過ごすと豪語し、龍之介に見せ付けるかの様に自慢げに語っていた。
友人の楽しげな笑顔を思い浮かべるたびに、何度目になるのか自らも解らないほどにため息が漏れる。
「はぁ、彼女かぁ…」
ボヤいてはみるものの、彼には決定的な短所があった。
女性を意識して目の前にすると、目を合わせる事は愚か、言葉を交わすのも躊躇(ためら)ってしまうのだ。
「無理、だよなぁ…」
ガックリと項垂(うなだ)れ、龍之介は再びため息を吐く。
正面から視線を外し、俯いて歩く龍之介は、自分の不注意と気付くまでに少しの時間を要(よう)してしまった。
ドンッ!
「きゃっ…」
「あっ……!」
龍之介は直ぐに顔を上げて、目の前で尻餅をついてしまった女の子を見やり、自分でも不思議なくらい自然に手を差し伸べていた。
「ご、ごめん。怪我はない?」
女の子の手を取り、その場に立たせ、龍之介は彼女の全身をマジマジと見つめる。
「あ、あの…」
怪訝(けげん)な表情で龍之介を伺う女の子の態度に、彼は我に返り、
「ブンッ!」と音がしたんじゃないかと思うほどに、勢い良く頭を縦に振って謝る。
「ごめん! ぼ、僕急ぐから!」
龍之介はろれつも回らぬ舌でそれだけを何とか吐き出し、彼は猛ダッシュで駆け出して行った。
これが、龍之介とその女の子との最初の出会いだった。
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