《MUMEI》
午後九時 解散
 しばらく、誰かの下手くそな歌声に耳を傾ける。
ふと隣を見ると、アンナが真剣な表情でメールを打っていた。

「どうしたの?誰にメール?」

 エリナが聞いてもアンナは無言で携帯の画面を見入ったままだ。
やがて携帯を収めたと思うと突然、彼女は立ち上がった。
少し顔色が悪く見えるのは照明のせいだろうか。

「ゴメン。あたし、ちょい用事できちゃったから、今日はもう帰るわ」

そう言って、アンナは足早に部屋を出て行ってしまった。

「え、アンナ?……バイバーイ」

わけも分からないまま、とりあえず手を振り、エリナは小さくため息をついた。

 自分も一緒に帰りたかったのに、言い出すタイミングを逃してしまった。

 そんな憂鬱なエリナとは裏腹に、多田は楽しそうにみんなと馬鹿騒ぎを続けていた。

 結局最後まで残る羽目になり、解散したのは午後九時を回っていた。
 一応、母の携帯にメールを送っておいたが、きっと送らなくても何も言ってこないだろうとエリナは思った。
当然のように返事も来ない。

「今から二次会行く人、手挙げて〜」

 道端で派手に騒ぐ彼らをエリナは遠巻きに見た。
なぜ彼らがこんなにテンションが高いのか、謎だ。

「なあなあ、斎藤も行くだろ?」

「あー、ゴメン。あたしは帰るわ」

「えー、行こうよ」

「ごめんね」

 エリナはなんとかその場を切り抜けた。

 これ以上、このわけのわからない馬鹿騒ぎに参加などしてられない。

「じゃあね〜。酒呑んで捕まんないようにね〜」

エリナは笑顔でメンバー達と別れ、一人駅の方へ歩き出した。

何百メートルか進んだところで、後ろから誰かが走ってくる音が響いてきた。

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