《MUMEI》
不自然なのは
「よう、斎藤」

振り向くと、多田が少し息を弾ませて追い付いてきた。

「多田?みんなと二次会しに行くんじゃなかったの?ビリヤード」

「いや、断ってきた」

 そう言うと、多田はなぜか隣に並んで歩き始めた。
エリナも仕方なく一緒に歩く。

会話が続かない。

 エリナは気まずい空気を感じながら無言で歩きつづける。
やがて、多田はおもむろに口を開いた。

「斎藤はさ、学校楽しい?」

突然、そんなことを言われ、思わずエリナは「は?」と妙な声を出してしまった。

「何いきなり?楽しいけど」

エリナは多田の顔を見た。
多田は真面目な表情でまっすぐ前を見ている。

 一体、こいつ何なの。

「そっか?なんか、俺から見てすげえ不自然なんだよな、あんた。無理してるっつーか」

 いきなりあんた呼ばわりか。

「意味わかんないだけど。つうか、あたしから見たらあんたのが不自然だから」

「俺が?何で?」

「なんか、俺の周りはみんなトモダチみたいな顔しちゃって。
昨日、小谷達に連れて行かれたのに、朝には仲良しってどう考えても変でしょ。弱みでも握ってたわけ?」

「あれは男同士、腹割って話し合った結果だ。
俺のこと無視したくせに。
それに、あんただってクラスみんなと仲良しって顔してんじゃん。本当は、そんなん思ってないくせに」

「はあ?」

「見てたら分かるさ。俺にはね。
ああ、でもあんた、俺には痛いくらい自然だね。
他の奴にはこんなきっつい言い方しねえだろ。
そんなに俺のこと嫌い?何にもしてないのに。
いや、逆に好きなのか?俺のこと」

 あっけらかんと言ってのける多田にエリナは激しく苛立ちを覚えた。

「バカじゃないの?あんたマジキモいんだけど」

「うわ。俺、今すげえ傷ついた」

ふざけているのか、多田は自分の胸に両手を置いた。

「知るか!つーか、ついてくんな」

 エリナは鞄で一発思い切り殴りつけてやると一気に走り出した。
後ろで多田が何か言っていたが構わず走った。

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